瀬戸さんと水無月くん
「なんだ瀬戸、まだ残ってたのか。せっかく水無月がいないんだ、早く帰って勉強でもしたらどうだ」


私しかいない教室を覗いて苦笑するのは、いつだったかの幽霊探しの時に見回りに来た教師だった。


「まあ、相方がいなくて寂しいのはわからんでもないが。とにかく、今日は下校時間が過ぎるより早く帰れよ。また見回り中に会うのはごめんだからな」


そう言って笑って去って行く教師を見送って、それもそうだなと私も席を立つ。
私だって、同じ人に何度も説教をくらうのはごめんだ。

それに今日は、家に帰ってからやりたいこともたくさんある。
おにぎりのフィルムをコンビニの袋にしまって鞄に押し込むと、その鞄を持って教室を出る。
最後に一度だけ振り返って見ると、一番に私の隣の席が目に入った。


「寂しくない、寂しくなんかないけど……」


誰もいない廊下で、それでも誰かに聞こえてしまわないように細心の注意を払って、小さく小さく呟く。


「水無月くんがいない学校は…………何だかつまらない」


水無月くんのいない平和で幸せなはずの一日は、思っていた以上に平凡で退屈なままに、こうして終わりを迎えた。
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