年の差恋愛
掴まれた手は離される事なく、2人は電車に乗って、自宅の最寄り駅で降りると、やっとその手が離された。

「何なんですか?突然あの場から連れ出すなんて」

「…あいつがあんまり可哀相だったから」
「…え??」

市来部長の言葉に意味がわからず首をかしげる。

「最後までお前の話聞いてたら、あいつ相当傷ついてたから、止めた」
「…あの?…一体いつから聞いてたんですか?」

「…ほぼ全部」
「…」

…他人に、告白の返事を聞かれる事程恥ずかしい事はない。亜美は相変わらず口を真一文字に結んだまま、市来部長を睨んだ。

「…ったく、俺も他人の色恋沙汰に首なんてツッコミたくないんだよ。こっちがいい迷惑だ。とにかく、もう、あいつに変な事言うなよ」

そう言うと、市来部長はマンションに向かって歩き出した。…亜美も、市来部長の一歩後ろを歩いて帰る。

…一番見られたくない人に見られたな。

亜美は内心そう思って、溜息をついた。…益々距離が出来てしまう。

市来部長の後ろ姿を見ながら、届きそうで届かない背中に手を伸ばしてみた。

「…届くわけない…ぇ」

手を伸ばしたまま俯いた亜美の手が、ほんわか温かくなった。

亜美は驚いて顔を上げると、市来部長が亜美の手を握っていた。
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