居場所をください。



「で、話の続きは?」


車に乗り込み、こいつはすぐに聞いてきた。

車を走らせることもせずに。


「…………俺の彼女も強姦されたことあるんだよ。」


俺は、昔の記憶をまた

思い出した。

忘れることのできない記憶を。


「俺の彼女は強姦されても誰にも言わず

俺と会ってた。学校にも来てた。

だけどいつの間にかそれが広まってて

それで俺も事件のことを知って

それから学校には来なくなった。

引っ越しもして、こっから離れたんだよ。」


松野貴也はそんな話を

静かに聞いていた。


「美鈴は確かに事件での恐怖感はないけど

でも、不安は付きまとってんじゃねーかな。

あいつは歌手だから、もし少しでも

今回のことがマスコミに流れたら

一気に日本中に流されるだろ。

尾ひれもついて。

美鈴はそれが一番こえーんじゃねーかな。

ひかるくんのことだし

たぶん今回のことは必要最低限のやつにしか

本当のことを話してはいないと思う。

薬のことですらな。

ひかるくんの結婚する相手も警察官で

瑠樹の親も警察のお偉いさんらしいし

たぶん情報が出回ることはないだろうけど

あいつ、かなり不安なんだと思う。

そうやって情報が出回って人気が落ちたら

…それで事務所に迷惑かけたら

お前に迷惑かけたら

…お前に捨てられたら

ひかるくんに捨てられたらって。

それが怖くて、だけど頼ることもできないから

あいつは今俺んちにいるんじゃねーかな。

ひかるくんすら今うちには来てない。

あいつは今一人で乗り越えてるけど

でも、やっぱり不安なんだと俺は思う。」


勝手な俺の憶測でしかないけど……



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