居場所をください。
「ほら、ついた。」
「……うわー、すごい。」
ついたのはまさかの屋上。
貴也はしっかり鍵まで持っていた。
23階建てのこのビルは
ここらへんじゃ郡を抜いて高い。
ここらへんの景色が一望できる。
だから当然、遠くまで見渡せて
綺麗には綺麗なんだけど……
「……でも、なんでここ?」
「綺麗だろ。」
「まぁそうだけど。」
遠くの夜景や、あそこのイルミネーションも
ここで見えてしまうくらいにね。
「あ、あそこが施設だ。
やっぱり近いなぁ。」
あそこが一高で
あそこが前働いていたバイト先。
通っていた小・中学校も
よく遊んでいたショッピングモールも
ここから全部見える。
こんな狭い中で生きてきたんだなぁ……
「綺麗だな。美鈴が育った町。」
「え?」
「ここで美鈴は育ってきたんだな。」
フェンスに片手をかけ、
貴也は辺りを見渡しながら
そんなことをいった。
一等地で育った私。
コンクリートばかりで高いビルばかりの
バリバリの都会育ち。
あの狭い空が嫌いで仕方なかった。
狭い世界が嫌いで仕方なかった。
……それでも、ここから見る空は
とっても広くて
ここから見る景色は
とっても綺麗だった。
「よく見とけよ。自分が育った町。」
「……うん。」
今のマンションから
すごく離れているわけでもない。
それでもここから見るこの景色は
やっぱり格別な物だった。