居場所をください。



「……ありがとうございました~!」


沖野さんはなにも語らない。

ただただ、いつもように

頭を下げ。


そして、会場にはまた大きな音が鳴り、

それと同時に、金のテープが

会場へと噴出された。


そしてなぜか、沖野さんは私にマイクを渡した。

いつもならステージに置くはずのマイクを

なぜか私に置いた。

会場を見渡したあと、唇に手を当てた。

それも、本当にいつも通りに。


そして一瞬にして静まり返った会場。

5万人前後の人が、ひとつになった瞬間に

私はまた、泣けてきてしまった。


そして沖野さんは一歩前に出て


「10年間、本当にどうもありがとう~!」


その言葉だけが、いつもと違っていて

私はまた、涙を流した。


そして幕が下りてきて、

静寂に包まれた会場に沖野さんは

「バイバーイ!」と叫び、

ひたすら手を振った。

その幕が完全に下りるまで

しゃがみながらも手を振った。


そして完全に幕が降りたあと、

沖野さんは立ち上がらなかった。

下を向いたまま、ステージの上で

子供が泣くように、泣きじゃくった。


30代女性がここまで泣くことは

見たことがない。

それを見て、大人げないと

罵る大人もいるかもしれないけど

でもきっと、沖野さんは

大人になりたかった訳じゃない。

いつまでも子供でありたかったんだ。

だからこそ、この不安定の世界を

全力で走り続けてきたんだ。

だからこそ、大人の事情を無視して

10年という節目に引退をするんだ。


そしてそれを多くの人が支持をした。


きっとみんな、心のどこかで

子供でいたかったんだ。

だからこそ、沖野さんに惹かれるんだ。


こんなにも夢を全力で追いかけて

無邪気に走り続ける人は

あんまりいないから。


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