居場所をください。



「…あ、じゃあ鍵は置いてくよ。

もう引っ越すなら使えなくなるもんね。」


「あ、あぁ

そうだな。

また新しいのできたら渡すわ。」


「はは、いらないよ。」


「は?なんで」


「次の家は、

長曽我部さんだけの物じゃないから。

だから、次からはちゃんと

インターホンを押して入るよ。」


「なら別に一緒じゃん。」


「違うよ。……全然違う。

もう、長曽我部さんには

幸せになってもらいたいもん。」


「は?余計なお世話。」


「私長曽我部さんのこと大好きだよ。」


「…っ、」


「迎えに来てくれたのが長曽我部さんで

私、本当に幸せだと思った。

長曽我部さんは毎年初詣で

私と再会することを祈祷してたみたいだけどさ

私は長曽我部さんと会えたこと

偶然とか、運命とか、

そんな言葉で片付けるのやだよ。

私がカラオケでバイトしてたのも

長曽我部さんがあそこで飲んでたのも

ちゃんと意味があったことだもん。

全部、自分の行動で未来が変わるんだよ。

だからさ、私はもう

長曽我部さんを後悔させたくないから

近すぎた距離感を

普通の距離感にしようかなって

ずっと考えてたんだよね。

兄妹でお互いの家の鍵を持つって

たぶんだけど、近すぎると思うんだよね。

長曽我部さんにはもう

里美さんたちとの家庭があって

私には貴也がいる。

きっと里美さんは私が鍵持つこと嫌がるし、

私はもう長曽我部さんちの鍵

持ってなくても大丈夫だよ。

……まぁ、うちの鍵は長曽我部さん

持っててもいいけどさ。なにかと助かるし。


……とにかく、もう少し妹離れしなよ。

いつまでも同じ場所にはいられないんだし

離れたって私は長曽我部さんの妹だし、

これからもAプロで歌手続けてくんだからさ。

長曽我部さんもいい加減、

大事なものを大事にしなよ。」


「……わかったよ。」


「ふふ、じゃあこれ。鍵ね。」



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