居場所をください。



「なぁ、美鈴。」


「え、ちょ!」


そんなガキな美鈴の使う浮き輪の中に

遠慮なしに、貴也は潜り込んだ。


……すげー絵だけど。これ。

超密着してんじゃん。


「来月末、モルディブ行くか~。」


「え!?

え、行けるの?本当に!?」


しかもそれで美鈴が振り返るから

見てるこっちが恥ずかしいくらいだし…


「来月末、俺休みあるから。

美鈴も休み合わせてもらった。

だからお互いそれまできつきつだけど

そうでもしなきゃ旅行なんていけないしな?」


「……ありがとう!」


あー、なんか

美鈴が超かわいく見えるわ、これ。

これが貴也だけに見せる顔ってやつね。

こいつのこの顔に惚れてるわけな。


「……美鈴」


「なに?」


うわ、急に冷めた。

温度差がすげーな。


「明日、焼肉行かねー?

休みだろ?どうせ。」


「その言い方がすごい腹立つ。」


なんなんだ、この差。

貴也なんて後ろで笑ってやがるし。

そんな面白いかよ。


「俺もお前の顔がすげー腹立つ。」


どうしてお前の顔はそんなにも

変わっていくんだよ。


「うわ、むかつく。

むかつくから高橋の奢りね、明日。」


……でも、俺に向ける顔だけは

確かにずっと変わらないわな。


「は?いやいや

この前俺がおごったからな。」


「もう時効でーす。

バイト代入ったでしょー?

私はまだライブの利益待ちなんだからねー。」


「稼いでるやつがよく言うわ。

じゃあ明日17時にマンション行くわ。」


「はいはい、わかりました。」


ま、こんな俺らがいいのかもな。

こんな適当で、冷めてる俺らが。



高橋瑠樹編 E N D
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