居場所をください。



━━━━━━━━━・・・


「ただいま。」


「おかえり~。
今日は遅かったね?」


「あぁ…
美鈴ちゃんがやけに仕事熱心だからな、最近。
長曽我部さん外れてから仕事熱心になったけど、最近はまた一段と。」


「はは、そっかー。
美鈴ちゃんらしいや。」


……ここ最近、もうすっかり半同棲状態。
こんな生活ももう1年がたつ。

……結婚か。


「ご飯するー?」


「あぁ、うん。先飯で。
めっちゃ腹減った。」


「すぐ用意しまーす。」


そもそも、結婚ってどうしたらするわけ?
きっかけってなんた?

長曽我部さんは子供の進学があって
貴也と美鈴ちゃんは長曽我部さんがそばにいる間に


━━俺にもそんなタイミングが
いつかちゃんと回ってくんのかな。


「どうしたの?考え事?」


「……あー、うん。」


「仕事?」


「……ちょっとな。」


結婚なんて言葉を俺が言ったら、咲はなんて思うか。
……長曽我部さんはなんて思うか…

こんなときまで仕事を考えたくないけど
貴也と美鈴ちゃんが早く入籍して、それで先までこの若さでとなると
……やめよ。考えても無駄だ。


そもそも、咲がアイドル引退してからまだ一年ちょい。
それで結婚じゃ世間的に早すぎる気もする。

実際はそんなこともないのに。


「どうしたの?ほんとに。
全然喋んないじゃん。」


「……美鈴ちゃんが変なこと言うからなんか考えさせられる。」


「あはは、美鈴ちゃんってたまに名言残したりするもんね。
この前もブログで『なんでもない朝が本当はなによりも幸せ』って書いてたし。」


あぁ…あれな。
貴也が舞台の地方公演から帰ってきた翌朝だったな。


「けっこう前だけど、
『待ってるだけじゃ始まらない。始めたいなら始めなきゃ。歩きたいなら歩かなきゃ。
自分が進まなきゃずっとそのままだよ』ってSNS書いてあって
そんなわかりきったことなのに、いちいち胸に響くよね。」


「あ、それ覚えてる。」


長曽我部さんが美鈴ちゃんから離れてからの歌詞製作。
本当は知ってたんだよな、俺は。俺だけは。

長曽我部さんに心配かけられないからって
必死に寝る間も惜しんで歌詞まとめて、メロディ作って

でも全然うまくいかなくて貴也に当たり散らして。


「……自分が進まなきゃずっとそのまま、か…」



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