居場所をください。
「お待たせ。」
「ありがと。
いただきます。」
初めて食べるハヤシライス。
貴也がいつも食べてるハヤシライス。
「…っ!おいしい!」
「はは、よかった。」
「マスターって料理上手だよね。
野菜スープもすっごいおいしいし。
こんなところじゃなくて
場所変えてどうどうと店構えたら
もっとお客さん入りそうなのに。」
「でも俺がいなくなっちゃったら
貴也が落ち着いてご飯食べる場所がなくなるしね。」
「え…貴也のため?」
「貴也は小学校高学年くらいから
自分がみんなと違う立場に悩んでてね。
ずっと芸能界にいるから
友達と普通に遊ぶこともできなかったし
そもそも仲の良かった友達もいなくて。
中学に上がるとみんな貴也を
芸能人扱いし始めたらしくて。
どこにいても一般人には戻れなくて
ちょっとかわいそうだったんだ。
だからこの場所にこんな分かりにくい店を構えた。
貴也が一般人に戻れるようにな。」
「…どうしてそこまでするの?」
「貴也の父親と俺が仲良くて
でも貴也の父親は早くに亡くなって
貴也の母親が働いてたから
貴也は小さい頃からよくうちに来てたんだ。
誠も貴也を芸能人扱いなんてしてなかったし。
ま、俺は貴也の父親代わりみたいなもんだから。」
「…そっか。」
……………貴也にも居場所がなかったんだな。
学校にも、家にも…
「ま、貴也が来なくなったら
この店は潰れるな。」
「それもどうかと思うけどね?」