わたしは元婚約者の弟に恋をしました
 そのとき、わたしの肩が叩かれる。振り返ると仁美が立っていたのだ。

「この子、彼氏いるんだから、口説いたらダメよ」

「知ってます。浦川先輩を困らせようというつもりはないので」

 彼は仁美の忠告もさらっと流してしまった。

「お弁当、置きっぱなしだから戻ろうか」

 仁美に引っ張られるようにして、さっきの場所に戻った。

「綺麗な子だけど、仲良くなるなら別れてからにしないとだめだよ。あんなにいい人なんだから」

「分かっているよ。そんなつもりはないから」

 ただ戸惑っただけで、彼と付き合うとは考えられない。

「そういえば、先輩って知り合いだったの?」

「わたしの高校の後輩らしいの」

「だったら邪魔したのまずかった?」

「大丈夫。傘も返せたし。さっきの傘、彼に借りていたの。帰りがけにたまたま出会って」

 最後にちょっと嘘とも本当とも言い難い内容を付け加えたのは、彼女に余計な心配をかけさせたくなかったからだ。
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