わたしは元婚約者の弟に恋をしました
「ほのかがここに来てもうすぐ五年か。あっという間だった気がするよ」

「そうだね。わたしも最初は大変だった」

 仕事内容がという意味で、労働状態は他の事務所に比べるとかなり緩やからしい。

 一時的に朝から夜まで入り浸ったり、泊まり込みになることも稀にあるくらいだ。他の事務所の人に羨ましがられることも少なくない。

 それは仁美の叔父さんが従業員のプライベートを尊重しようという考えを持っていることと、彼自身が誰よりも仕事を優先してこなしている結果なのだろう。

そして、仁美が仕事を手伝うようになり、事務所に入り浸るのは自主的にそうしたいと思わない限り、必要性は皆無となったらしい。

 わたしが入社したとき、すでに仁美は「特別」だった。

あのときは彼女が先輩だからだと思っていたが、今は彼女がなぜ特別扱いされるのか痛感していた。彼女と一緒にいるのは楽しいが、彼女の溢れんばかりの才能をむざむだと見せつけられ、自分が本当にこの仕事をしていていいのかと悩んだこともあった。向いてないなら早めに別の将来を模索するべきではないか、と。

雄太に出会ったのはそんなときだ。空虚だったわたしの心を初めての恋人が満たしてくれたのだと思う。
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