わたしは元婚約者の弟に恋をしました
「綺麗で、自己評価が低くて、優しくて、努力家で。きっといいところをあげればたくさんある。でも、理屈じゃないくらい好きなんだ」

 彼の悲しみにあえいだ表情は、わたしの心を苦しめていった。

「そっか」

 わたしの心は楽になった。だが、彼の心の奥底にある、どうしょうもない恋心を引き出してしまい、申し訳ない気持ちになってしまった。

 わたしは体を震わせた。

 彼はコーヒーを飲みほした。

「さすがに長話をするには寒すぎたね。適当なところで切り上げて帰ろうか」

 わたしが慌てて飲もうとすると、彼はそれを制した。

「ゆっくりでいいよ」

「ありがとう」

 辛い心境なのに、わたしを労わってくれる彼の言葉が身に染みた。わたしがそれを飲み終わると、彼がわたしに手を差し出した。わたしが空き缶を渡すと、彼はそれをゴミ箱に捨てた。

 わたしたちは公園を出ることにした。さっきの賑やかさが嘘のように、辺りはひっそりと静まり返っていた。さっきより気温が下がってるはずなのにコーヒーの効果なのか不思議とそこまで寒さは感じなかった。だが、彼の心はきっと寒いままなのだろう。わたしが雄太とあの女の人を見てしまったときのように。
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