イヌオトコ@猫少女(仮)
ねこ少女ー犬オトコ+美形=三角
「治ったら学校に行くように言われたわ?なにがあったの?笑結」


寒さと疲れからか、風邪をひいてしまったようだ。


休む連絡を入れた母が、逆に呼び出されたことに戸惑う。


これまで懸命に育ててきて、
嘘のつけない素直な娘に育ってくれ、


問題行動とは無縁のはずだった。


昨日は大変な一日で、確かにこの数日、少し様子がおかしかったが、それほどとは。


青天の霹靂だ。


「…す、すきな、ひとが、できた、のかも」


結局蓮谷からは、

やんわりとお断りのメールが入っていた。


「えっ…?」

「でも、がっこうの、せんせいで」

もう、何をどこからどう話していいのか、わからなくなっていた。

「大丈夫よ?落ち着いて?」


冷やしたタオルを当てた、赤い顔の頭を撫でる。


暖かい母の手に涙が溢れた。


「…でも、せんぱいに、ちゃんと謝らなきゃ」


この子も、いつまでも子供じゃないんだと、


こういうことで思い悩む年頃になったのかと。



***

「こんな時間にすみません」


千里が訪ねて来たのは、夕食前だった。


「あら千里くんじゃない。珍しいわね」


「笑結さん、学校休んだでしょう?そのお見舞いで。

あと、少しですがこれ、
母が京都の野菜を送ってくれたので、お裾分け」


「あらありがとう!助かるわ!」


「お食事、お誘いしたいんだけど、笑結の風邪が移ると困るから」

むしろ移してほしいです、と言いかけた。


「ごめんね?わざわざありがとう」

ドアの隙間からマスクをして顔だけ出す笑結。


「じゃあまた、学校で」


帰ろうとしたとき、


インターホンが鳴った。


「…先生?」


「えっ…?」


千里が怪訝な顔になる。

と、


モニター画面の背後に父の姿が見えた。

今日は早上がりだったらしい。


「何のご用件で?」


「あっ、お父上。お話、させて頂けませんか。
すぐ終わりますんで」


「きみに父上呼ばわりされる覚えはない」


あからさまに不機嫌になるが
やむを得ず一緒に入る。


葦海に気付いたミィが顔を出す。

にゃあん?
と、


玄関のドアを開けると、出迎えた。


「あれっ?猫まだいたんだ」


以前飼っていたことは知っていたが、まだいるとは思わなかった。

自分には姿を消していたミィに、千里は面白くなかった。


気になった千里は、見届けようと留まることにした。


「こんな時間にアポもなしで、
どういったご用件で?

明日も早いんですが」


「ちょっとごめんやで」


角のある父の言葉に、


抱き上げていたミィを下ろすと、リビングへ進む。

が、
しっぽをピンと立て、


足元にまとわり付くようにミィも付いていく。


突然現れ、ミィまで持っていかれ、

あからさまに不機嫌な態度でじろりと睨む。

意外と大人げない。


「なんや今日は一段と不細工やのう」


マスクをして赤い顔の笑結に、すれ違いに、にやにやしながら。


席を勧められるが、
床に正座する。


「この度は、こちらのお嬢さんにご迷惑をお掛けしまして、

大変申し訳ございませんでした」

こんなまともなことをするのだと、笑結が一番驚く。


「その、腕のお怪我も、娘のために負ってくださって」


ずいぶん治っていたが、痛々しいアピールがしたくて

あえて吊ってきた葦海。


「ああ、まあ、でもそれは、教員である前に、人として当然のことですから」


やはりまともなことを言って返す。

なにか企んでいる、と笑結は思ってしまった。


「本当に、いいお嬢さんですね。学校でもよく頑張ってますよ」


他人に誉められれば悪い気はしない。

「そこで本題です」

改めて座り直すと、


「実は今朝がた、学校から指摘がありまして。

私の不適切な行動について、謹慎処分かもしくは解雇と通告されました。

本来であれば処分の如何に関わらず学校側の責任者とともに、

菓子折りのひとつも持参し謝罪のご挨拶に伺うべきところですが、
私一人で参りましたのには理由がありまして」


「……はあ」


いきなり饒舌になり、手ぶらで来た言い訳をする。


「えー、つまり、その」

「えっ?」

「いや、違うな」


ごほん、と咳払いし、頭をわしわしと掻く。

取り繕うのには限界があるようだ。

「で、本日付けできれいさっぱり辞めてきました。
明日にでも大阪に引き上げます」


重い処分を軽く言う男だ。

時間がないアピールもしたかった。


「まだ2週間目ですよ?!代わりの先生だっていないでしょう」

「そうなの?」


笑結の言葉に母も驚く。そこまで短いとは。


「高校のブラバンの指導なんぞ、譜面さえ読めたら俺でもできんねん。

俺かてバイトみたいなもんやし。この腕じゃ仕事にならんし」


まともに本業をしていたかも怪しいが。


あまりのいい加減さに呆れる。


「こんな人、雇ったなんて…」

「そこでご提案なんですが」

何の営業だ。


「許可、もらえませんか、実地研修の」


話の流れに付いていけない。


「そ、その件については、場所を改めたいんですがね」


辛うじて言いたいことを飲み込んだ父が動揺する。


「今やないとあかんのです。うやむやにされんの、困るんで」


「ちょっと待って?何の話になってるの?」


「ミケ子のことに決まってるやん」


「だから、じっちけんしゅう、ってなに?」


母が、恐る恐る確かめる。


「…えっと、つまり、その、もしかして、…結婚?したいと…?」


「ご名答です!」


回りくどい。


「そうなの??って……えっ?誰が?誰と???」


「それは言われへん」


自分で考えろと言わんばかりだ。

「ちょっと待ってください」


口を挟んだのは千里だった。


「それなら僕が、結婚します。いや、したいです。させてください」


「えっ…」


突然の告白に、両親とも面食らい、笑結も言葉をなくす。


確かにキスはされたが。


「奏くん…」


「きみは、実家の不動産の仕事を継ぐために今の学校に入ったんだろう?

こんな、従姉の色恋沙汰で止まっている場合じゃあ」


「ご心配なく。成績はトップを維持してますし、なによりまさに今
僕の人生が掛かっています。笑結は僕のこと嫌いですか?」


「そ、そんなこと、急に言われても」


あのときのキスで意識し始めた笑結は赤くなって慌てる。


「僕は子供の頃から笑結のことが好きでした。お嫁さんに

なってくれるって言ってくれたじゃないですか」


もう、なりふり構わずだ。


本当は卒業する頃に、付き合ってくださいと言うつもりだったが、

急な展開に焦っていた。



< 17 / 32 >

この作品をシェア

pagetop