華麗なる人生に暗雲があったりなかったり




「どうしたの?俊君?」



 女が俺の顔を覗き込んでくるが、目は水野と男に注がれていた。


 あの男は誰だ?


 坊主頭にでかい図体。


 ガキ大将を大きくしたような男だ。


 水野の大学での交流関係はある程度知っている。


 だが、見たことのない男だ。


 やけに親しそうに。



「あれ、小春ちゃんだよな?」



 隣にいた広也が俺に耳打ちした。



「ああ」



 呆然と答える。



「今日、友達の引越しの手伝いって言ってたけど」



 水野の力なんていらないほど、怪力に見える。


 というか、引越しの手伝いを女友達に頼むか?


 黒澤と安住は、水野とさほど面識がないから後姿だけではわからない。



「ね?どうしたの?」



 さっきより幾分大きな声で聞かれ、ワンピース女に目を向けた。



「なんでもない」



 取り繕うように少し笑ってみせると、ワンピース女は気を良くしたようだ。


 女に笑いかけるほどに、俺は動揺していた。


 本当に、あいつは疫病神だ。


 何で、こんなところに現れるんだ?


 水野のほうには目を向けずに、ひたすら、ワンピース女に視線を注ぎ、興味のあるフリをする。


 そうしないと、水野のことを気にかけてしまいそうだった。


 俺とワンピース女は良い雰囲気。


 もう、これはこのまま、どこにでも連れ込むことは可能だ。


 気分が少し上がったところで、また一瞬で壊される。



「仁くんのごとを悪く言うなぁ~!寛太でも許ざないんだからっ!!」



 大声が当たりに響いた。


 明らかに酔っている声。


 反射的に目を向けると、水野が椅子から立ち、男をポカポカ殴っていた。



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