華麗なる人生に暗雲があったりなかったり



「あれ、水野さんじゃ」



 二人も気づいたようだ。


 あれだけ騒げば、誰でも見てしまう。


 本当に、最悪な女だ。


 男を殴っていた水野はよろけ、防戦一方だった男が抱きとめた。


 三人が戦々恐々と俺を見た。


 あんな馬鹿知るか。


 酒をあおる。



「何?知り合いなの?」



 水玉ブラウスの女が小首を傾げる。



「一緒の大学の子なんだ」



 控えめな返答だ。



「それだけ?」



 ワンピース女が俺の目をじっと見た。


 探りを入れられているのがわかり、心の中だけでため息をこぼす。



「俺と、俊はバイト先が一緒で、それで少し親しいんだ」



 それに女たちは納得したようだが、話は逸れない。



「なんか、相当飲んでるね。彼氏が止めるのも聞かないで」



 栗毛のパーマ女が苦笑した。


 同性、異性問わず誰からも引かれる姿の水野。


 傍から見ても、ただの恥ずかしい酔っ払い。


 こんなのと知り合いだと思われることさえ心外だ。



「い、いや、彼氏では、ないと思うよ。な?そうだよな?」



 黒澤の言葉に、二人は首を壊れたおもちゃのように、ぶんぶん振った。



「そうか?頭を撫でられて、ずいぶん親しそうだぞ」



 どうでもいい。


 もう関係ない。


 そんな思いが口調に出ていたのだろう。



「そうよ。あんなに飲めるのは気を許してる証拠。私も飲もうかな?」



 ワンピース女は追及をやめ、意味深な視線を寄越してきた。


 あいつは馬鹿だから、誰の前でも無防備なだけに過ぎない。



「今は飲むな。後で、飲ませてやる」


 女はその言葉に驚いたようだが、すぐに艶っぽい唇で綺麗に微笑んでみせた。


 そして俺の耳元で、やっぱり艶っぽく囁く。


 水野みたいな、考えなしの女より、こういう女だ。


 何を考えているか手に取るようにわかるし、扱いだって楽だ。


 水野よりもずっと男を知っているし、それだけに男の扱いに長けている。



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