ピュア・ラブ
「この先の商店街に自転車屋さんがあるから、そこで修理をしてもらおう」
「うん」

そうか、商店街にたしかあった。
ホームセンターで買った自転車だ、そこの店しか思い浮かばなかった。
アーケイドがない商店街をひたすら歩く。

「あそこ、駅と橋の真ん中あたりにあるから覚えておくといいよ」
「ありがとう」

自転車を持ち込むと、橘君は私に待っているようにいい、何処かに行った。
自転車のパンクが直るころ、走ってくる橘君がいた。

「ほら、拭いて」

前に差し出されたのは、タオルだった。
吸い取りの悪い感じと、袋からだしたので、買って来てくれたのだ。
お願い、これ以上私になんか優しくしないで。せっかくストップをかけたのにまた走り出してしまう。私には合わせる顔がない。

「手が紫色になってるじゃないか、早くふかないと風邪をひくぞ」
「うん、ありがとう」

酷い事をした私に、優しく言う。まともに顔も見られない。

「終わりましたよ」
「え? あ、はい、ありがとうございます」

パンクの修理が終わったようで店主が声をかけた。
修理代金を支払い、店を出る。

「傘とバスタオルをありがとう」
「送るよ」
「ううん、大丈夫……あ、ちょっと、橘君」

そう言ったのに、橘君は話も聞かず、私の自転車を押して歩いて行ってしまった。
まだ雨は激しい。傘もさしていない彼をそのままにできない。
後ろから走って追いつくと、傘をさして二人で入った。
アパートに着くまで何もしゃべらなかった。
聞きたいこと、謝りたいことがあったのに、言葉に出来なかった。

「俺さ……」

アパートが見えてきたころ、橘君が口を開いた。
何を言われるかと、気が気じゃなかった。橘君が先に言う前に私から謝った方が礼儀なのではないか、きっとそうだ。先に謝ろう。

「あの……あの……」
「俺さ、動物園の獣医の仕事も体験っていうか、勉強したいんだ」

私が、どもっていると先に橘君が話しを切り出した。

「動物園の獣医ってなかなか狭き門でさ、俺が大学に行っている頃に就職したのは知っている先輩で、たったの二人なんだ」

そうか、獣医にも色々あるのだ。イヌや猫ばかりじゃない。動物園だって水族館だって動物はいる。

「本当に動物病院が増えてきているし、飼っているペットも多様化している。それに対応できるか出来ないかで、これから先は違ってくると思うんだ。たちばな動物病院だったら、どんな動物も診察してくれる、っていうことにならないと、経営も難しくなる」

確かにそうかもしれない。動物の番組をみていると、そんな動物までペットにしているのかと思う事が度々ある。

「嫌な裏側を話す様だけど、コネがないと、なかなか動物園は難しいんだ。で、今、その動物園で働いている先輩と話しをしてきたところなんだ」
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