ピュア・ラブ
「ずっと聞きたかった事があるの。なんで私を産んだの?」
「そ、それは……」

すぐに言葉が出ては来なかった。そんなことだろうと思ってはいた。だから、特にショックでもなかった。

「言えないなら私が代わりに言ってあげる。快楽で子供を作って、出来たら困った。でもおろすのは人殺しのようで気が引けた。幸いにして、若い母親がいる。面倒を見て貰えばいい。だけど、誤算があった。おばあちゃんは予定外の速さで死んでしまった。自分の時間が、やりたいことが、お金が全て娘に取られるのは我慢がならない。だから育児放棄した。そうよね」
「茜……」
「これでも、感謝はしているのよ。何もしてくれなくても戸籍があり、名前もある。両親の名前がある。学校にも行けた。でも全て義務的な書面での感謝よ。あなた達がこの世にいるだけで、虫唾が走るわ。離婚の様に母娘は縁が切れない。でも絶縁は出来る。そのノートのコピーがこれ、これを持って行きなさい。ノートは私が保管する。今後一切私に近づく事があれば、これを証拠に脅迫で訴える。覚悟しなさい。これが、あなた達二人が私にしてきたことへの罰よ」

既に母親は何も答える事が出来なかった。
今のこうした状態を見たら、橘君は幻滅するだろうか。いやする。当然だ。橘君の前ではこんなに激しい部分を見せたことがない。
普段の私は、怒る言う感情はない。常に穏やかにと心がける。
でも、お父さん先生の話、受付の人の話しを聞き、私は、前に進むと決めた。それには、断ち切らなくてはならないものがある。

「お母さんはこれからどうすればいいの?」
「だから、お母さんって誰よ。ただ産んだだけでしょ? 私だって出来るわ」
「お父さんが死んじゃって……」
「あなたのお得意の泣き落としで、妾にでもなれば? 一番お似合いよ。私は、この時を待っていた。いいたいことは沢山あるけど、もういいわ。自分の口が腐ってもいい、それくらい憎々しい言葉であなた達を叩きのめす。それだけを思って生きてきた。もう、私の人生に入り込まないで、帰って!! いい? もう一度言うわ。絶縁よ、二度と顔を見せないで。何処でのたれ死のうが知ったことではないわ、さようなら」

いつまでも動かない母親を、服を掴み、引きずりだした。靴を叩きつけ、ドアを閉めた。
やっと、これでやっと自分の人生が始まる。もう、あの人たちの陰に怯えずに暮らせるのだ。
ノートを見た母親の顔。流石にあれほど持って行っていたとは思ってもみなかったのだろう。私も計算をしたとき、びっくりした。楽にマンションの頭金になる程だった。
こんな性悪女は、橘君に好かれる資格もない。会いたくて、会いたくて仕方がない、そう思った初めての人だ。初恋は実らないという。私は、一生恋など実らない。
この思いを胸に秘め、前に進むのだ。
< 121 / 134 >

この作品をシェア

pagetop