ピュア・ラブ
消毒にも通い、私が見ても、いい感じでモモは回復してきていた。
高級な毛皮にも負けないくらいの、柔らかいモモの毛。お腹に口をつけてぶぶっと息を吹くと、モモは手と足をぐいーんと広げて爪を出した。
ずっと見ていても飽きない。
モモが疲れてぐっすりと眠ってしまうほど、遊んだ。
モモは、いびきをかいた。初めは分からなかった。静かに本を読んでいると、ぐーっと聞こえた。その音を辿っていくと、その音を出しているのはモモだった。
抱っこも大好きで、一度抱くと、何も出来なかった。
たまたまテレビを観ていると、変った抱っこひもをしているお母さんが映っていた。
斜め掛けのハンモックみたいな形で、その中にすっぽりと赤ちゃんが入っていた。

「あ、モモは入るかな」

まだまだ片手で抱ける大きさ。モモだったら、この中でじっとしているかもしれない。
大学に入学すると同時に、念願の一人暮らしを始めた。
敷金、礼金を出してくれるはずもなく、何とか、大学の近くで下宿を探した。
学生課で紹介してもらう時も、下宿を選ぶ学生が少なくなって、紹介する下宿が少なくなってしまったと、職員は言った。
その分、悩むこともなかった。
その下宿には一年程いた。その一年の間にバイトでお金を貯め、アパートを借りたのだ。
その時にミシンを覚え、カーテンなどを縫い始めた。
それからは私の趣味になった。手芸は、いい。没頭できるし、達成感もある。自分で作った物だから愛着もわく。
ミシンを手始めに、編み物も出来る様になった。
私は、ネットでこの抱っこひもを探し、誰か、手作りをしている人はいないか探した。
すると、けっこう自作をしているお母さんもいて、作るのには事欠かなかった。
生地は、沢山ある。
私は、その中から、一つを選び、ミシンでモモの抱っこひもを作ってしまった。

「モモ、おいで」

軽々と、片手でモモを持ち上げると、私は、その中にモモを入れた。
モモは、もぞもぞとしていたが、しっくりくるようで、丸くなって落ち着いた。
これで動いても嫌がらなかったら、大成功だ。
私は、モモを抱っこしたまま、台所に行き、料理を始めた。
胸の少し下に入っているモモは、少し邪魔だったけれど、大人しく抱っこされていた。
私の生活の中心はモモになった。
ご飯の時間、管理、衛生。全てにおいて、モモが中心だった。
仕事から帰ると、モモにご飯を食べさせ、病院に行った。
消毒だけだったので、すぐに診察は終わる。
最近は、橘君ではなく、お父さん先生が診察している。お父さん先生によると、研修先の病院で勤務時間が長くなったそうで、この病院の診察は、出来ない状態になっているそうだ。
まあ、私にとってはどうでもいいことだ。
そんな橘君だが、モモのことはとても気にしてくれているようで、避妊手術は自分が執刀すると言っているそうだ。
私は、何の問題もなく手術をしてもらえればそれでいい。そう思っている。
エリザベスカラーと呼ばれる保護用具も付け、仕事に行った。
仕事中も気が気じゃなかったけれど、それもなれてくると、ずっと寝ていることが分かって、安心した。
橘君の言う通りにゲージに入れて置いて正解だった。
身体が回復したら、ゲージから自由にしてあげよう。それを目標に、通院した。

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