婚約者は高校生
ーそして今に至る。

なぜこうなった。
問いかけても、視界の隅に追いやろうとも後部座席にあるそれは消えることはない。



『亮介?』


電話口から声をかけられて、電話中だったことを思い出した。



「ああ、はい、お祖父様。聞いてますよ」


『なんだ、デートでも思い出しておったのか』


「…はは…まあ、そんなところです」



なんだかもう乾いた笑いしか出てこない。
疲れ果てていることに気づいているのか、いないのか。お祖父様はこちらの様子を特に気にすることもなく『そうか、そうか』と満足げに笑った。

そうしている間にも俺の貴重な時間が刻々と削られていく。
これ以上根掘り葉掘り聞かれる前に退散しよう。



「そういうわけでデートは終了しましたので。これからの時間は自由にさせてもらいます。では」


『そういうわけとはどういう…』



わけだ、という言葉を最後まで聞くことなく通話終了ボタンを押す。
どう言われようとこれ以上話すつもりはない。聞きたかったら彼女に聞けばいい。

さて、彼女も満足したようだし、プレゼントも一応渡しているし、とりあえずこれでしばらくデートはしなくてすむだろう。

それよりも後部座席にあるコレを部屋のどこに置いとけばいいのか。
そんなことを悩みながら俺は帰途についた。


…次のデートはそう遅くないうちにすることになるとはその時の俺は知るよしもなかった。


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