わたしの朝
わたしにできること
愛は、弱っていった。
衰弱と呼ぶには大げさならば、みるみる体力が落ちていった。
朝、8:00に起きるのだけれど少し家事をすると、お昼ごはんまではまた数時間眠らなければなからなかった。
午後も、大した活動はしていないのに、夕方にはまた夜ごはんまで眠る。
毎日、体力をつけようとエクササイズの日課を欠かさなかったが、それは愛の体型を理想に近づけるどころか、発作を悪化させるだけだった。
それでも愛は、その日課を崩そうとは思わなかった。
そうゆうところが、彼女の頑固なところ。
そんな愛にも元気になれる日があった。
日曜日。
愛はそれを、魔法の日曜日と呼んだ。
朝から晩まで彼といられる時間。
自分が自分でいられる時間。
甘えられる時間。
2人だけの時間。
本当はもう、1日遊ぶ体力など、どこにもなかった。
だから、友だちと会いたい時は半日。
でもなぜだか、彼と会う日曜日だけは笑顔で始まり笑顔で終われるのだった。
時々、発作を起こしたり気絶してしまうけれど、日曜日は愛にとって、明日を生きる糧だった。
彼に対する申し訳なさと同時に、何にも代えられない幸せを感じていた。
明日も、彼の声を聴けるかしら。
それが愛の最大の気がかりであり、心の中の口癖になった。
だから不安になると、彼の胸に耳をあて、心臓の音を聴くのだ。
難聴な耳も、この時ばかりはしっかりと愛しい音をキャッチしてくれた。
こんなんじゃ、私はいいお嫁さんになれない。
ちゃんと家事をこなせない。
ただでさえ脳機能不全のおかげで、動作能力や記憶能力に障害があるから、思うようなスピードで要領よく仕事をこなすことができないのに。
笑っておかえりって…言いたい。
だから、聞いた。
「ねぇねぇ、家事をなんでも完璧にこなす奥さんか、少しどんくさいけどニコニコしてる奥さん、どっちがいい?」
「そりゃあ、後者だよ。」
それが嘘でもなんでもよかった。
ただ、今その言葉を聞かせてくれただけで十分だった。
目頭が熱くなる。
泣かない泣かない、と言い聞かせる。
精一杯の気遣いさえ、彼には届いていなかったのだから。
私にできることは少ない。
せめて、笑っていよう。
「おはよう」
「いってらっしゃい」
「おかえり」
「お疲れさま」
「おやすみ」
「大好き」
「ありがとう」
幼稚園児でもできそうなことだけれど、これが私のやれること、やるべきことだ。
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