オフィスにラブは落ちてねぇ!! 2
何度インターホンのボタンを押しても、電話を掛けても、愛美は出てくれない。

緒川支部長はドアの前にうずくまり、両手で抱えた膝の上に額を乗せた。

(もしかして…もう、手遅れ…?)

長い片想いの末に、やっとこの手で抱きしめた愛美を失いたくない。

ずっと隣で愛美が笑っていてくれたら、それだけで良かったはずなのに、いつの間にかどんどん欲張りになって、もっと甘えて欲しいとか、どうして頼ってくれないんだとか、自分勝手に愛美を責めた。

(ごめん…。なかなか会えなくても、愛美はいつも文句のひとつも言わないで、笑って俺を待っててくれたのに…。)

愛美がどんなに甘えたくても、甘えられないようにしていたのは自分なのかも知れない。

仕事が終わるのが遅くなった日は、仕事だから仕方ないと愛美に会いに来なかったのに、仕事が早く終わった日に急に会いに来ても、愛美はいつも夕飯を用意して待っていてくれた。

おそらく毎日、来るか来ないかもわからないのに、二人分の夕飯を用意して待っていてくれたのだと初めて気付く。

愛美はそんな事は一言も言わなかったし、料理を無駄にしたと責められた事もなかった。

(甘えてたのは俺の方だ…。こんなんじゃ愛美が安心して甘えられなくて当然だよ…。)

知らず知らずのうちに、涙が溢れた。

いくら手の甲で拭っても、涙は情けなく頬を濡らす。

(愛美がいないと…俺はうまく笑えないよ…。どこを目指して歩けばいいのかも、どうやって息をすればいいかもわからない…。)


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