青と口笛に寄せられて
部屋の前でゴクリと唾を飲んだ。
私から啓さんの部屋を訪ねたこと……、ここに来たばかりの頃は分からないことがあると押しかけたりもしたけど、付き合ってからは一度もない。
ノックをしようか、やめようか、ノックをしようか、やめようか。
繰り返すこと12回目で、目の前の扉が急に開いた。
啓さんの驚いた表情よりも先に、私の方が「きゃあっ!」と声を上げてしまった。
「なんだよ、幽霊かと思ったしょ」
ふー、と息をついた啓さんは、神妙な面持ちの私を見て首をかしげた。
「何か用でもあったか?」
「啓さんこそ、私に話したいことありませんか?」
「……………………中に入っか?」
啓さんは否定しなかった。
私は風呂上がりの髪の毛ぐるぐる、部屋着のままで彼の部屋に入り込む。
彼の部屋は長年住んでいるだけあって、片付いてはいるものの物が多かった。
特に犬に関する書物が目を引く。
中には彼が行ったことがあるというカナダの雑誌も置いてあった。
床にペタンと座った私に合わせて、啓さんも床に座る。
少し開いている窓から、風がそよそよ吹き込んでくるのが涼しくて気持ちよかった。
「えっと…………、政さんに聞きました」
何から話せばいいのやら、と迷ったけれど。変に隠すのも嫌だったので、政さんには申し訳ないけど正直に話した。
「里沙が啓さんたちにまさかそんなことを頼んだなんて知らずに、私は呑気にここにいたわけです……」
「人手が足りなかったし、深雪までいなくなったら困るから言わなかったんだわ」
啓さんは覚悟を決めたのか、さっきの夕飯時のようなボーッとした顔はしておらず、非常に真面目な顔で私を見つめていた。
もう濁った目はしていない。
全て話すことを決めたらしい、いつもの澄んだ青い目だった。