青と口笛に寄せられて
啓さんはポーカーフェイスが得意だと自分で言っていた。
なにもそんなところで使わなくたっていいのに。
鈍感な私はそこに気づくことさえ出来ないのだから。
「啓がね、俺に言ったんだ。自分から深雪ちゃんに伝えてみる、タイミングを見てから伝えるから、って。きっと今日2人になったのは、それを伝えるためだったんだと思う。だけど、深雪ちゃんの顔を見てたら詳しいことを言えなくなって、それでついついかいつまんで話しちゃったんだべな」
「啓さんは……、私が東京に戻りたいって言うと思ってるんですかね……」
「そこまでは分からないけど……。家族のことをしっかり説得してほしいとは思ってるはず」
私は政さんの話を聞きながら、啓さんのことを思った。
お父さんやお母さんが私を心配してくれて、戻ってきて欲しいと思ってくれてるのは分かる。
里沙も寂しがってるのは分かってる。
でも、それじゃあ啓さんは?
私が家族を説得し切れなかったら、東京に帰ってもいいのかな。
下手したら遠距離どころか両想いになれたことまで無くなるみたいで、なんだか悲しくなってしまった。
「深雪ちゃん」
ぼんやりしていたら、政さんに顔をのぞき込まれて慌てて目を上げる。
「今、啓は部屋にいると思う。まだ寝てないはずだ。2人で話してきたらどうだべ?」
私は静かにうなずくしかなかった。
忙しかった数ヶ月、夜はお風呂から上がったら部屋に戻って即ベッドへダイブして、死んだように眠っていた。
慣れない宿の仕事も請け負って、みんな疲れがピークだったからリビングでの団らんも避けていた。
原因を作ったのは私なのかもしれない。