お願いだから、つかまえて
「えーっそんなことないですよ、私なんにもしてないですよ! 単に目つきが悪いだけじゃないですか? 矢田さん普通に優しいですよ。ねえ?」
一ヶ月ほど経った頃に参加した飲み会で、そんなわけで私は妙に歓迎されている、ということを知らされたので、きょとんとしてそう振ったら、
我関せずという顔をしてビールを飲んでいた修吾は、真顔で言い放った。
「そりゃ、下心があるんだから、当たり前だろ。」
えええ、やっと仕事を覚え始めて、周りの人達とも打ち解け始めて、ここからだというタイミングでオフィスラブ、困ります!!
というようなことを捲し立てて私は猛抗議したけれど、修吾は聞こえないふりをするし、部内はお祝いムードというか、救いの女神降臨だとか崇め奉られ、完全に逃げ場がなかった。
やっぱり、嬉しかったし。
尊敬も感謝もしていたし。
改めて「付き合ってほしい」と修吾に言われた時、まあいっか、と思ってしまった。
懐かしい、二年前の冬。
仕事が終わった後、飲みに行こうと誘われて、ご飯を食べてバーに移動した。
まだ二ヶ月程度の付き合いだったけど、修吾がお酒に強いわけではないことはもう知っていたので、
やたらハイペースで飲むなあと、少し心配して。
バーを出たら、お酒の力を目一杯借りたんだな、というような、なんの飾り気もない、勢いに任せた、二つも年上の人の緊張が滲みまくった告白を、夜道で。
「俺と、…俺と、付き合ってほしい。付き合おう。」
聞いて。
断れるわけ、なかった。
「そうしましょうか。」
その時が、修吾のふにゃりとした、子どもみたいな笑顔を見た、最初だった。