お願いだから、つかまえて
すごく不思議な感覚だった。
昨日まで私は修吾の恋人だったのに。
結構、急展開のはずなんだ。
だけど、私の心は全然ぐらぐらしなくて、この状況にすんなりとフィットしていた。
ーー僕と居たほうが、理紗さんには、自然でしょう。
佐々木くんは昨日そう言った。
こういうことなんだ。
頭でわかっていても、体感で実感すると、不思議だった。
「…普通に挨拶って、なんですか?」
「え? だから、お付き合いの。」
「いいですよそんなの。」
「いやダメでしょう。お家に出入りさせてもらうんですから。」
「だって…」
私は言葉を濁してその先を言うのをやめたけれど、佐々木くんは許してくれなかった。
「だって、なんですか?」
「…そんなことしたら、結婚結婚言われるだけですよ…」
「ああ。」
納得したように佐々木くんが頷いた。
家に着いたので、私は玄関のドアの鍵を開ける。
「しますか? 結婚。」
ガチャン!
私の手から抜いた鍵が落ちた。
大丈夫ですか、と言いながら佐々木くんが屈んでそれを拾ってくれる。
大丈夫ですか、と、結婚しますか、の聞き方が同じだし。
「どうぞ。」
フリーズした私に変わってドアを開けて、佐々木くんは私が家に入るのを待っている。
「何今の? プロポーズ…?」
「え? いや、今指輪とか持ってないのでそれは改めてしますけど…」
「交際期間24時間も経ってないですよ!」
「まあ、それはそうですけど。でも僕は理紗さんと結婚したいので。あとは理紗さん次第ですけど。」