お願いだから、つかまえて
びっくりした。
修吾は絶対そんなこと言わなかった。
私の家には、片手で収まる回数しか来たことがなかったし、それもお祖母ちゃんに挨拶しなきゃという義務感からで、二人で過ごすのは修吾の部屋だと、ほとんどルールのようになっていた。
お祖母ちゃんが友達との温泉旅行でいなかった時だって、私が修吾の部屋まで行くのが当然のことだった。
そりゃそうだ。誰だって他人の気配が染み付いた一軒家になんて、長居したくないだろう。
私の彼氏となる人に、そんな選択肢があるなんて、思いもしなかった。
「あ、すみません。図々しいですね。忘れてください。」
私の沈黙に、佐々木くんが少し慌てたように早口でそう言った。
「…そうじゃなくて。私は嬉しいですけど。気づまりじゃないですか?」
「どうして?」
「だって…」
「あ、シングルベッドは、まあ確かに狭いですけど、理紗さんが落ち着かないなら僕の部屋から布団を持ち込んで敷かせてもらえれば。」
「いや、お客さん用の布団くらいはうちにありますけど。」
「あ、そうか。」
「ていうか、佐々木くんが窮屈じゃなければ、一緒にベッドで寝てくれていいですけど。」
「…まあ、そうなったら確実に毎回襲いますけど。」
「意外過ぎ。」
「そっちが無自覚過ぎるんじゃないですか?」
「そんな草食系みたいな感じなのに。」
「巷では僕みたいなのをロールキャベツ男子と言うんじゃないですか。」
「自分で言うんだ…」
また話が脱線してる。
佐々木くんもそう思ったのか、ひとつ空咳をした。
「…じゃあ、まずお祖母さんに許可を頂かないといけませんね。あと普通にご挨拶と…」