お願いだから、つかまえて
「大体あんた、理紗さん理紗さんて、矢田さんと別れたからってなんかくっついてくるけど、恥ずかしくないわけ? 理紗さんが優しいからって、ほんと図々しい。」
「…別に前田さんにくっついてるわけじゃないですか…」
憎まれ口を返しながらも長戸は分の悪さを感じているようで、悔しげだ。
「矢田さんの彼女だからって、最初から敵認定するのがまず浅はかだっつーの。いい男の好きな女なんか、いい女の可能性が高いに決まってんじゃない。あんた、自分が男の前だと態度違うから、そんなこともわかんないわけよ。」
「でも長戸さん、最近は裏表ないっていうか、素だよね。今の方が修吾もきっと好きだと思うなー。」
戻ってきた理紗さんがするっと口を挟んできた。
「あ、佐々木さん大丈夫でした?」
「うん、鍵を忘れて家を出ちゃったんだって。」
「あー、忘れそーな感じ…」
あはは、と二人で笑いあってしまったら、それが面白くないのか、
「矢田さんって、食べ物は何が好きですか?」
長戸が急に、前置きもなく遮ってきた。ほんと自分のことばっかりだし、調子乗ってる。
「うーん煮物とか好きだよ、基本的にお腹に優しめのもの?」
「何普通に教えてるんですか? 甘い、理紗さん優しすぎる!」
私がそう言っても、理紗さんはもう私に責められるのは慣れているから、全然気にしない。
「まあでも、修吾は仕事第一だから、仲良くなりたいなら仕事の腕を上げるのが一番の近道かもね。友理奈ちゃんに色々教わったらいいよ。教えるのも勉強になるし。」
なんて付け足すものだから、
「なんで私がこんな人に教えてもらわないといけないんですか?!」
「じょーだんじゃないですよ、私こんなのに何も教えることないですよ!」
私と長戸の悲鳴が重なって、ほらーいいコンビになりそうー、と理紗さんにおかしそうに笑われた。