お願いだから、つかまえて

ひとしきり説明してくれてから、そういえば、と佐々木くんが珍しく私の目を見た。

「宮前さん、食器洗うの、上手なんですねえ。」
「ええ? そんなのに上手いも下手もあります?」
「鍋もグラスも何もかも、見たことないくらいピカピカになっててびっくりしましたよ。」

昨日は、余計なことはすまい、彼女じゃないし、彼女になりたいと思われても困るし、と、かなり自意識過剰な決意をして、じっと動かなかった。
何より、女子力に繋がりそうな領域では、香苗が活躍しなくちゃ意味がなかったし。
でも、どうしてもシンクから溢れそうになっている食器だけは、気になって気になって気になって、ついに手を出してしまった。
放っておいて気にしないで下さい、と言われていたのに。

だって絶対、この人、料理は好きだけど、片付けは嫌いな人だ、と、キッチンを一目見てわかってしまったから。

「余計なことしてすみません。私ねえ、祖母に育てられたので、どうしてもおばあちゃんぽいところあるんですよ。つい我慢できなくてやっちゃうんですよね。」
「家事の中で洗い物が何よりも一番嫌いなので、実はすごく助かりました。宮前さんがやってくれなかったら、今もあのままでした。」
「…だと、思ったんですよね。」
「人が来るときは紙皿紙コップ方式を導入しようかと本気で考えていたところで…」
「私いる時は、私がやりますよ。結構好きだし。」

あっ、なんかさらっと、また家行く的なことを言ってしまった。と言ってから思ったけれど、佐々木くんは全く何も気にした様子もなく、有り難いですねえ、と独り言みたいな調子で言っている。

言い寄られたわけでもないのに、一人で予防線を張りまくってて、本当に馬鹿みたいだと思う。
だけど今日もあんまりスムーズに会話が進むので、私の気分は自然と浮き立ってきてしまうし、佐々木くんもたぶん、楽しんでくれている、のではないか…なんて思ってしまう。
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