お願いだから、つかまえて

「じゃあ…また。」
「はい、じゃあ。」

一緒に改札を通って、別々のホームへと分かれて歩きだした。

「あ、理紗さん。」
「はい?」
「落としてます。」

振り返ると、佐々木くんが屈んでいた。拾ってくれたのは、今しがた本屋で受け取ったレシートだった。

「やだ、ごめんなさい。ありがとう。」
「いえ、じゃあまた。」

会釈をし合って、今度こそ別れた。
…いや、今何か起きなかった?

ん?

え?

…あれっ?

今、理紗さんって言った?

え、気のせい? 佐々木くんが、私の下の名前なんか記憶しているとも思えないし…?

足を止めて振り返ると、ホームへ下る階段に踏み出している後ろ姿が目に入った。

トレンチコートからはみ出ているパーカーのフードが、裏っ返しになっていた。

あー、直したい!!

また衝動に突き動かされて、あのちょっと丸まった背中に突撃したい思いだったけれど、もちろん、さすがに我慢した。
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