お願いだから、つかまえて

洗濯が終わったら、乾燥に切り替え、大量に洗い終えたものを、何度かに分けて乾燥する。
それが終わるまで、ベタベタになっていたたくさんの調味料の瓶を拭いて、これらもぴかぴかにした。

その間、佐々木くんは口を挟まず静かにパソコンに向かっていた。おかげで集中できた。

「…お仕事ですか?」

後ろから声をかけたら、びくっと佐々木くんの肩が跳ねた。

「あ、ごめんなさい。」
「いえ…まあ、仕事というか、仕事が趣味みたいなものなので。」
「へえー、それ最高ですね。」
「最高、ですか…」
「山園さんと同じ会社ってことは、IT関係ですよね。」
「まあ、部署は僕はデータベースとか作る方で、彼は顧客の窓口みたいな感じなので、仕事はだいぶ違いますけどね。」

それで、佐々木くんは山園さんのことを知らなかったわけだ。
昨日も、山園さんはスーツ姿でパリッと決まっていたのに対し、佐々木くんはラフな格好だったし。

「なるほど。…あ、洗濯終わったんですけど、どこにしまえばいいですか?」
「あ、そうですね、場所は特に決めてないので適当に…」

佐々木くんはさらっと問題発言をしながら、ぐるりと部屋を見渡した。

「…なんか、ずいぶん綺麗になりましたね。」
「そうですか? 物の場所はいじってないですけど。布という布を洗いました。」
「はあ…」

感心したように頷いて、佐々木くんは私を見上げた。

「しまう場所は、おまかせします。理紗さんのほうが得意そうなので。」
「…それ、取り出す時にわからなくなってあちこち引っ掻き回してまた散らかるパターンじゃないですか。」
「………」

あ、面倒くさがった、今。
ダメな人だなこの人、料理は上手なのに。

「…じゃ、ヴィジュアルは無視で、なるべくぱっと見でわかりやすいところにしまっておくので、どうですか。」
「助かります。」

また、ふいっとパソコンに戻ってしまった。
もー、と思いながらも私は笑ってしまう。

「何か?」
「いえ、なんでも。」

やっぱり私、この人好きなのかなー、とはもちろん言わないで。
私はできるだけ見やすいように苦心しながら、カオスなクローゼットに洗った衣服を突っ込んだ。
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