お願いだから、つかまえて


終わったら、佐々木くんが温かい日本茶を淹れてくれていた。

「お疲れ様です。どうぞ。」
「あ、どうも、ありがとうございます。」

帰ります、と言うタイミングを逃して、二人でお茶をすすりながら、再びまったりしてしまう。
いかん、いかん。

「シャワー浴びますか?」
「いえ、家で浴びるので。えと、じゃあ私、帰るので…」
「送りますよ。車あるので。」

車あるんだ…

「いや、電車で帰るので大丈夫です。」

て、言ってるのに、鞄から車のキー取り出してるし。

「酒屋に行こうと思ってたので、ついでに。」
「あ、こないだ言ってた酒屋さん? 昨日だいぶ消費しましたもんね。」
「はい。行きます? あ、本、忘れないで。」
「……」

なんかな。どこまで見透かされてるのかな。
結構考えてることわかるようになってきているけど、なんとなく掴みどころがない。

結局、一緒に酒屋に行くことになって、私も車だしとか思って、ちゃっかりワインだの日本酒だの買い込んで、家まで送ってもらってしまった。

私ってこんな図太い人間だったっけ?
なんかどっか、麻痺してるのかも。

「じゃあ、本当に色々とありがとうございました。」

車を降りて、頭を下げると。

「あら理紗、お帰り。」

おばーーちゃん!! 何家の前掃き掃除してるのかな!! 今日、良い天気だしね!!

「あ、噂の。」

何が、噂のか、佐々木!!
車降りてるし。挨拶とかしなくていいし!

「昨日は理紗さんをお借りしてしまって、失礼しました。」
「あらあら、ご丁寧にどうもね。」
「あのー、ほらこないだお祖母ちゃんトムヤムクン食べたでしょ。あれ作ってくれた人!」
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