恋のお試し期間


「里真?こんな時間に…仕事は休み?」
「まあね」

食事して落ち着いたら何となくふらりと向かったのは三波の店。
平日の昼間に来るなんてなかったから彼女は驚いた顔。

「そう。まゆっくりしてって」
「やけに優しいね。何か負い目があるの」
「何それ」
「三波は知ってたんでしょ。矢田さんが私の初恋の人だって」
「……」
「だって私の手紙預かってくれてたんだよね。あれ、ちゃんと渡してくれてないよね?」

見た目のコンプレックスから誰にも言えなかったが三波には話した。
必至にダイエットしながらその目標はある人に告白するためだと。
特徴や会う時間帯も細かく話したのだから、知っていて当然のはず。

「……」
「何でそんな意地悪したの。ちゃんと渡してくれてたら」

そしたらきっと私たちはすれ違うこともなく。

いや、もうそれは過去の話だけど。

まさか彼女が騙しているとは思わなくて、裏切られたのが悲しくて。

「そう。そこまでは分かってしまったわけか。ほんと何も知らないものね。貴方は」
「三波」
「そのままのほうが、きっと貴方は幸せになれるっていうのに」
「どうして」
「かわいそうに」
「三波は何を知ってるの。教えて。あの手紙は何処へ行ったの?」
「それよりも混乱しないように気持ちの整理をつけるべきじゃない」
「え」
「今でも心の底で初恋の人を引きずってるから何時までも佐伯さんをちゃんと
受け入れなかったんじゃない。それが傍に居ると知って貴方はどう感じた?
どうしたいと思った?何も感じなかったわけじゃないでしょ?どうなの里真」

此方が切り出した話題なのにいつの間にか追い詰められる里真。
でも彼女の言うように自分は混乱している。動揺している。

「もう昔の事だもの。相手にだって彼女居るし私は慶吾さんと正式に付き合うから」
「そうなんだ。へえ」
「そうなの。だから大丈夫。ちょっとくらいは落ち込むけど…揺らいだりしないから」

それでも佐伯との交際をやめる気は無い。

お互いに過去の事として受け入れた。今はソワソワしてももう少し時間が経てば
落ち着いてそれこそ笑い話になる。

里真は必死にそう三波に言うが彼女は冷たく笑うだけだった。

「私は何も言わない」
「何で」
「それが私の選択」
「…三波」

そっぽを向いてしまう三波。これ以上粘っても教えてくれそうにはない。
仕方なく店を出て家路につくことにする。まだ大分早いけれど。
調子が悪くなって帰ってきたとか言えば母親も分かってくれるだろう。
いっきに色んな事がありすぎて頭が痛くなっているのも事実。

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