恋のお試し期間
本当のことを聞いてもいい?



「そう。熱は?大丈夫?そんな辛そうな顔して」
「寝る」
「そうしなさい。後でおかゆでも作ってあげるから」
「うん」

家に帰るなり母親に簡単に説明してベッドに寝転ぶ。
化粧を落とすのも着替えるのも後回しにして。

何気なく首に付けていたネックレスに触れてみる。

もし今日の事が彼に筒抜けだったらどうしよう。ちょっと気まずい。
電話ではなくメールで会社を休んだ事と今日は行けないことを報告した。
忙しい時間帯だからすぐには返事は来ない。でもそれでいいと思った。


『電話しても大丈夫かな。辛いよね。すぐ切るから』
「ぐっすり寝たから大丈夫です」
『連日忙しそうだったから疲れてるんだよ。ゆっくり休んで』
「…はい」

気がついたら夜になっていて携帯には着信があって。
慌ててかけなおす。
すぐに彼は出てくれた。とても心配そうな声で。

『看病してあげたいけど。弱っている君を見たらまた動転しそうだからやめる』
「慶吾さんって普段落ち着いてるのにそういうのダメなんですか?」
『君の事になると自分をちゃんと制御できなくなるんだ』
「そう、なんですか。すいません私ったら怪我とか病気とか」
『ううん。いいんだ気にしないで。それじゃまた元気になったら店に来てね』

すぐに電話は切れた。

すっきり眠って目は冴えているのに。こういう時は長電話したい気分なのに。
でも休んでいる手前元気いっぱいにもっと話をしましょうなんていえなくて。
風呂に入りパジャマに着替えて自室へと戻る。でもまだ眠くない。

「何だよ調子悪いんじゃなかったの」
「裕樹」
「なに」

ということで弟の部屋へ突撃。

姉は寝ているからと安心したか鍵はかかってなくて彼は勉強していたが
驚いて振り返る。里真はベッドに座る。窓際には押し付けたサボテン。

「うん。なんか、今日色々あってさ。疲れちゃった」
「じゃあ寝ろよ」
「さっきまで寝てたから今あんまり眠くないんだ」
「あっそ。じゃあ部屋に戻れば」
「私が関係してるのに知らない事って結構あるんだね」
「……」
「自分の事は自分が1番分かってて。知らないなんて言われてカチンと来たけど。
実際初恋の人が傍にいたのもわからないで。友達と思ってた子に裏切られてて。
まだ何かありそうなのに教えてもらえなくて。それ以上聞く勇気もないんだから」

三波に何を言われても平気でいられる自信ももてない。
これ以上何か自分の知らない事があったら。深く考えると怖い。
彼女の言うように何も知らないままでいたほうが幸せだったかも。

「今幸せなんだろ。だったら、気にすんなよ。そんなヤツの事なんか」
「…ずっと騙されてたんだって思ったら。なんだか気持ちが落ち込んでさ」
「俺に言われても」
「そう、だよね。ゴメン裕樹。じゃあ寝るわ」
「おやすみ」

弟の部屋を出て自分の部屋に戻りまたベッドへと寝転ぶ。
眠気は無いはずだったのに考え込んでいるうちにうとうとして。
結局は翌朝までぐっすり寝てしまうという。どれだけ寝たらいいのか。


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