恋のお試し期間


どんな顔をしたらいいのか。

何を言えばいいのか。

分からない、けど朝は来るし仕事にも行く。



「言われた資料全部借りてきました」
「よし。じゃ次これ10部コピー迅速に」
「はい」
「それと13時からの会議は14時に場所も第2会議室に変更」
「はい。連絡しておきます」

ポンコツなりに与えられた仕事はちゃんとこなそうと必死だった。
まだ矢田の指示に従って動くしか出来ないけれどそれでも。
何かに没頭するのは気持ちが落ち着かない今の自分には丁度いい。

彼も特に何をいうこともなくいつもどおりに接してくれた。
何を期待したわけでもないけれど、複雑な気持ちは拭えない。

それすらも忘れるほど忙しかったけれど。

ちょうどいい。

「今日はもういいからお前帰れ」
「矢田さんはまだ残るんですよね。大丈夫です私も」
「病み上がりの女子社員をこきつかってる冷徹な奴と俺が陰口たたかれてもいいのか」
「病み上がりって私別に…あ。そっか。そうですね。あはは」
「いいから帰れ」
「はい。そうします」

夕方、定時より少し遅くなりながらも里真は会社を出た。

そのまま家に帰ろうかとも思ったけれど、やはり佐伯の店へ。
顔を見たいのもあるがネックレスをしているのを見せたい。
きっと喜んでくれるに違いないから。

「里真!」
「こんばんは」
「どうしてまっすぐ家に帰らなかったの」
「慶吾さんに会いたくて」
「…悪い子だね。でも、元気そうでよかった」

店に入ると驚いた顔をして近づいてくる佐伯。
里真の言葉に苦笑し席に案内してくれた。

「あ。そうだ。見てくださいこれ貰ったペンダント」
「だめだよ」
「え?だめ…?」
「そんな胸元を広げないで。他の人に見えたらどうするの」
「そ、そうですか。すいません」
「ありがとう。やっぱり似合ってる、綺麗だよ」

体を気遣ってか今日はハーブティとクッキー。
佐伯の元でゆっくり飲んで心も体も落ち着けるかと思ったけれど、
静になったらまた考えてしまって。周りの雑音が聞こえなくなるくらい
没頭していたらしく肩を優しく揺らされるまで気づかなかった。

見ればお客は誰も居なくて店も薄暗くて閉店の時間が来たらしい。



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