恋のお試し期間



「でも仕事が好きなら辞められないよね。残念」
「暮らすのはその、考えさせてもらって。でも辞めなくても別にいいんじゃ?」
「前から思ってたけど夜遅くまで女性に居残りさせるような会社ってどうかと思う。
それにさ、将来的には君に店を手伝って欲しいし」
「えっと。あの。…それはどういう」
「俺は単純に付き合いたいからあんなに頑張ったわけじゃないんだよ」
「…え」
「君との未来を考えて。…待ちわびて。……里真。愛してる」

固まったままの里真の体を抱き寄せ耳元で囁く。優しく甘く。
顔が更に真っ赤になる里真。でも逃げる事はしない。出来ない。
そうキツく抱きしめられているわけではないのに。逃れられない。
不快ではない見えない何かで縛られているような感覚。

「…慶吾さん」
「大事にするよ。本当に。君だけを。…ね」
「……」
「どうして黙っちゃうの?どうして目を閉じるの?」
「き、緊張して目が回りそうなので。落ち着かせてるところです」
「そっか。じゃあ。もっと緊張させちゃおう」
「ほげっ」

抱きしめられたままソファに押し倒された。

目を閉じていたからビックリ。
慌てて目を開けるがすぐ前に佐伯の笑っている顔が見えてドキドキ。

「どんな言葉でも君への想いが追いつかない。どうしたらいいんだろうね」
「…ちゃんと伝わってますから」
「いいや。まだだ。まだ足りない。…一生足りないんだよ、きっと」
「私も好きです。大好きです」
「嬉しいよ。じゃあ、今夜は俺と1つになっちゃおうか」
「う。…は、…はい」
「…今はキスだけで我慢しよう」
「買い物する約束ですからね」
「分かってます」

と、いいつつ結局長くてしっとりとしたキスを延々とされる。

愛される事は嬉しいけれどせっかく予定していたデートプランが台無し。
もうこれで何度目だろう。でも、悪い気はしていないから強くは怒れない。
やっと解放された里真は相変わらず顔を真っ赤にしながら街へ出た。


「すらっとしてたらこういうの似合うんだろうな」
「里真が着ても十分可愛いと思うけど」
「私は。うーん。…やっぱりゆったりした服を選んじゃいます」
「そう?色んな服に挑戦するのも楽しいと思うけどね」

ショウウィンドウに飾られているマネキンの服。
雑誌などでもよく見る今流行りのデザイン。とても可愛い。
痩せたとは言っても元が美女な訳でもない自分には無理。

「じゃあ慶吾さんは私の選んだ服着ます?すっごいダサいって評判のセンスですけど」
「へえ。誰に選んであげたの?」
「父!母!弟!そして友人AとB!」
「そのAとBは当然女の子なんだよね」
「はい」
「里真が選んでくれた服か。いいね」
「よくないですよ。ダサい服着てる慶吾さんとか想像出来ない」
「色んな服に挑戦するのも楽しいって今俺言ったばっかりだから。実践してあげる」
「…うーん」

里真の手を握り歩き出す佐伯。
彼の優しさが嬉しいような嬉しくないような。ほんのり悔しいような。

言った通りに里真が選んだ服を彼は買ってくれた。
容姿がいいからなんとか誤魔化せてはいるが店員はさりげなく違う服を進めた。
のでやはり見る人が見れば微妙なセンスだったのだろう。



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