恋のお試し期間
私は歩き出す。


会社への連絡報告諸々を終えて、意地悪な人はさっさと帰り。

私は駅の静かな場所へ移動し、急いで携帯を手にする。


「はい。今駅に着きました。話してたより遅くなっちゃってごめんなさい。
今からお店に行きますね」
『それなんだけど。俺の部屋で待っててくれない?』
「え?」
『ゆっくり邪魔されず君と話がしたいんだ。ここじゃそれも無理だし。
何より疲れてる君に気を使わせたくないから』
「慶吾さん…いいんですか?」

昼には駅に着くはずだったのに最後に立ち寄った会社でゴタゴタがあって
矢田と一緒に巻き込まれ結局帰ってきたのは夕方近く。

お腹もすいたし佐伯の店に立ち寄るのはちょうどいいと思っていたのに。
彼に電話したら何処か嬉しそう。

もちろん里真も嬉しい。1日ぶりに会える。

『ぜひそうしてください。お願いします』
「そ、そんな。じゃあ…お料理作って待って」
『それは俺に任せて君は大人しくソファに座って何か飲み物でも飲んで待ってて。
冷蔵庫開けてもらえば何かしら入ってると思うから。あ。お酒は駄目だよ?』
「…はい。あの。シャワー借りてもいいですか?疲れちゃって」

あと誰かさんが吸ったタバコの匂いとか。その他もろもろ匂う。

『いいよ。と、言いたいけど。それもちょっとだけ待ってほしいんだ』
「え?」
『君と一緒に入りたい我儘を聞いてくれないかな…駄目かな』
「……でも今私酷い顔してるしお昼そのラーメンとか食べたし」

同僚さんの止めるのも聞かずに
欲望に負けて餃子なんかも食べましたし。

『駄目な理由はそれだけなの?じゃあ俺は気にしないから大丈夫だね』
「慶吾さん」
『待ってて。早くあがるから。…里真。すぐ行くからね』


ほぼ1日矢田の意地悪に付き合っていたから優しい言葉にほっとする。

でも一緒にシャワーを浴びるのなら昼はもう少し落ち着いた場所で食べるべきだった。
といっても矢田が面倒だからと勝手に選んだ店で自分は悪くない。

とおもう。

佐伯の部屋まではタクシーを使っていくことにした。土産ももちろん買ってきた。



「…慶吾さんの部屋ってほんと何時来ても綺麗」

合鍵で部屋に入るとほんのりとアロマの良い香りがして落ち着く。
毎日掃除してそうな埃ひとつない部屋。以前里真がプレゼントしたものが
ちゃんと飾られていてうれしい。

ただあまりにもファンシーすぎてシックな部屋に不釣り合いなのが
申し訳ないけど。荷物をソファに置いて座る。

そのままうたたねをしてしまいそうな里真だがふと視線を向けた先に気になるもの。


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