恋のお試し期間



「ごめんね。すぐ挨拶できなくて」
「いえ。まだ忙しそうだし今日はもうこれで」
「昨日のこともあるし。里真が嫌じゃないなら、君を家まで送りたい。
少しだけでいいから待っててくれない?」
「でも大丈夫ですか?」

会社帰り。何となく佐伯の店に立ち寄ったらまたイベントでもやっているのかと
思うくらい忙しそう。佐伯の姿を見つけるも声もかけられず暫く様子を伺っていた里真。
厨房で料理を手早くさばきバイトには的確な指示を出す彼はやっぱりかっこいい。
見とれながらも帰るタイミングを見計らっていたら彼が気づいて駆け寄ってきてくれた。

「ここから君の家までそんなかからないし、少しならバイト君にお任せできるよ」
「…じゃあ。待ちます」

邪魔にならない場所で彼を待つ。20分ほど待ったろうか。
簡単に着替えを済ませた佐伯が出てきて彼と一緒に店を出る。まだ大変だろうに。
それを私の為に来てくれるなんて。里真は申し訳ない。けど嬉しい。複雑な気持ち。

夜道を2人で並んで歩く。カップルみたいに腕を組むとか手を繋ぐとか。
里真から積極的にするなんて出来なくて。微妙に距離が空いている。

「なに。そんな笑って」

ふと見上げたお隣さん。ソレに気づいて里間はクスクスと笑う。

「慶吾さんおでこに粉ついてる」
「え。そうなの?じゃあ、取って」

そんな里真に顔を近づける佐伯。

「いいですよ」

ハンカチを手に取り粉を払う。

「…キスもちょうだい」
「ここで?」
「そう。ここで」

戸惑いながらもちゅ、と頬にキスをする里真。

「この辺は慶吾さんのファン多いから。これで勘弁してください」
「駄目。何時まで経っても繋がらない電話に不安でいっぱいだったんだよ?
お試しでも彼氏は彼氏。責任をとってもらわないとね」
「それ今じゃないと駄目ですか」
「何時ならいい?」
「休みの日…とか」
「じゃあ日曜に俺の部屋で手料理でも作ってもらおうかな」
「料理は慶吾さんの方が上手じゃないですか」
「里真の料理も食べてみたいから。メニューは君に任せるからよろしく」

彼の部屋で料理。本当に交際してるみたい。いや、お試し中だけど。
里真は家の前まで送ってもらうとお礼を言って家に入る。
メニューどうしよう。料理なんか殆ど母親任せで自分ではしない。
下手だとは思わないがプロである彼の前では上手ではないだろう。

「里真?行き成り料理の本とか出してどうしたの」
「料理しようと思って」
「お腹空いたの?何か作ろうか」
「そうじゃないの。まあ、いいから」

男心をくすぐるにはやっぱり肉じゃがあたりだろうか。
使い古された本を引っ張ってきて調べる。
弁当はずっと練習用の肉じゃがの消費に費やされそうだ。


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