恋のお試し期間
本当に私でよかったんですか?




「ねえ、三波」
「ん」
「慶…、佐伯さんって昔から優しいよね」
「うん。イジメっこからよく守ってもらってたよね。あんた」

仕事帰り。何時もとはルートをかえて久しぶりに街の小さな本屋に立ち寄る。
そこで働いているのが幼馴染の女の子。彼女とは1つしか違わない。
里真の方が年上。でも相手の方がしっかりしていて歳の差など無い。
さりげなく料理の本や美容の雑誌を眺めながら世間話。

「うん。そうそう」

でも女子にイジメられたのはそんな彼のお陰という話も聞いて複雑。

「親の店ついでオーナー。私も同じだけど。こっちは閑古鳥あっちは大繁盛」
「いいな。私もOLやめてなんか店しようかな」
「やめときな。あんたじゃすぐ倒産するって」
「ひどいな」

でも確かに自分に商売は向いてない。本を戻し勝手に出してきた椅子に座る。
それを叱る事も無く三波はレジで来ない客を待っている。
大型店舗に客を取られ常連のお客かたまに来る客かで小さいお店は静か。
だからこそ相談とか雑談をするには丁度いいと言う皮肉。

「それで?なに?まさか慶吾さんにアタックしようなんて思ってるの」
「え」
「この前の取引先の営業マンはどうしたの?」
「…あ。うん。その人には1ヶ月ほど前に告白したらふられた」
「で何時もみたいに慶吾さんの店でヤケ食いして愚痴ってきたと」
「ま、まね」

さすが幼馴染、里真の行動パターンを把握している。

「優しいからって勘違いすると痛い目見るよ」
「分かってる。けど、…さ、けど」

彼が私の事好きって言うんだもん。なんて恥かしくて言えない。
だけど里真の一方的な片思いと思っている三波にちょっとムカっとする。
自分だって分かってる。彼と自分では釣り合いが取れ無い事くらい。

「脈ありな訳?」
「…まあね、…今度の休み料理するんだ。彼の、部屋で」
「へえ。私もさ、高校生の頃。慶吾さんに告白した事あるんだよね」
「え。そ、そうなの?」
「うん。あんたはダイエットに必死で知らないだろうけど」
「じゃあ、その間付き合ってたとか?」
「……まあ、ね」
「へえ。知らなかった…そっか。そうなんだ」

あの頃は周囲の事に気遣う余裕なんかなかったから世間のことは何も知らない。
日々空腹との戦いと運動の苦しさもあって。他人の色恋には興味も無く。
まさか彼と三波が付き合ってたなんて。
子どもの頃はたまに弟を含めた4人で遊んだりしてたけど。

愛想は置いといて昔から可愛かった三波となら釣り合いは取れている。

自分の知らない所で幼馴染同士が付き合っていたと聞くと複雑

そしてその相手が今交際しようとしている相手だとなおさら

過去のはずなのにショックを受けている里真。

「料理作るんでしょ。じゃあ、料理の本買ってって」
「うん。これ、ください」
「まいどあり」

本を買って家に帰る途中も呆然としてしまう。
でも、自分だってあれからダイエット成功して彼氏が出来た。
それで2人を責める事は無い。
でも、なんだろうこのモヤモヤする気持ちは。

よって行こうかと思ったけれど、結局佐伯の店を通らないルートで家に帰った。


帰っても彼から電話が無かったのは忙しいからか。


それとも


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