恋のお試し期間

モヤモヤとしたものを抱えながらもはっきりと相手に話は出来ず。
明日はついに彼の部屋へ行く日。

「そいや。私の周りは殆ど初恋は慶吾兄ちゃんって子ばっかだった」
「またその話題?」
「だってさ」

夜からお店に二次会の予約が入ったとかで夕飯でなくお昼ごはんを作る事になった。
それはそれで変な空気にならずに済むという安心はあるけれど。やっぱり不安。
どうしようか考えつつ会社帰りに立ち寄るのはやっぱり三波の居る本屋。

「今になってなんで行き成り慶吾さんが気になるの?全然気にしてなかったのに」
「気にしてない訳じゃないよ。私だって、優しいお兄ちゃんは好きで憧れだったよ。でもさ」
「ライバル多かったから最初から諦めてましたってクチか」
「それもある。けど、初恋が高校ん時だからね。恋ってイマイチわかってなかった」
「饅頭大好きなオコチャマだったもんね」
「ひどい」

小学生の高学年になってくる辺りからもう女の子は好きな子の話題で一杯。
だけど里真はそんな輪に入るはずもなくマイペースに遊んでいた訳で。
恋がどうとか、初恋がなんとか、ファーストキスの話題も知らなかったくらい。
大人になって恋愛に一生懸命になったのはその反動かもしれない。

「脈がありそうならやってみれば?」
「うん…」
「愚痴は聞いてあげるよ。雑誌2冊で」
「金取るんだ…、ま、頼みます」

勢いに任せ佐伯とお試しで付き合って1ヶ月ほど経つだろうか。
彼からの積極的なスキンシップでキスを許す。それ以上はないけど。
だんだんと佐伯の気持ちは本物なのかもしれないと里真も思い初め。
そんな彼を受け入れつつある。だから、家に帰ったら無駄毛を剃る予定。

「そうそう。何時もの仲間で集まろうって話聞いた?」
「えー聞いてない」
「そっか。高橋が言い出したんだけど。地元に残ったメンバーで飲み会だって」
「面白そうだね。っても、だいたい皆顔合わすよね。地元だもん」
「だよね。ま、定期的に集まって飲み会すんのも悪くないし。私は参加するよ」
「じゃあ私も行こう。メール来るかな」
「来るんじゃない」

女子の輪には入れなくてもずっと1人ぼっちだった訳ではなくて
里真と高橋という男子を中心にした5名ほどのダイエット部を結成し互いに励ましあい
苦労した。三波は標準だが付き合いというか暇なので傍に居たような感じで。

今でもたまに体系が変わっていないかなどカラカイながら会って酒を飲む。
飲み会なのに元ダイエット部とあって誰ひとり揚げ物は頼まず野菜ばかりという。

「じゃあ、また来週」
「丁度いいじゃない。何があっても愚痴る場所はあるよ」
「う、うん。そだね。それじゃ」

三波は冷静な子だ。普通に考えて理真が努力した所で佐伯を落とせるとは思えない。
里真だって同じ気持ち。だから怒ったりはしない。ちょっと拗ねるけど。

だけど彼女は知らなかった。

弟はずっと前から気づいていたようだけど。

佐伯の気持ち、とやらを。
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