恋のお試し期間



「そんなに俺を見つめて君は何が欲しいの?」
「え。あ。…えっと。抹茶ラテおかわり」
「はいはい。甘さは控えめにしますねお客さん」

今日は夕飯を家ではなくて彼の店で済まそうと予約を入れておいた。
電話に出なかったり電源を切ったりで彼に心配をかけた事もある。
何より質素なごはんと肉じゃが地獄に飽きてしまったのもあって。

何がいい?と聞かれたので食べたいものをメールでリクエストしておいたら
ちゃんと作ってくれていた。
そして今は食後のデザートを食べているところ。

「雑誌の効果はどうですか?」
「ああ。あれ。うん。いいよ、予約も入ってるし」
「よかったですね」
「俺は何度も断ったんだよ。この店の規模を考えればこれ以上増えるのはね。
色んな人に来てもらえるのは嬉しいけど味やサービスを落とすのは嫌だから」
「なるほど」

1人席について食事をしているとシェフがご挨拶、というか普通に座って
優しい笑顔でじっと里真が食べるのを見つめている。
それは素敵なのだけど、見られている方は恥ずかしくて困る。

「それに。急がしすぎると里真と会う時間も短くなるし。2人の時間は大事にしたい」
「…私も、大事にしたいです」
「同じ気持ちだね。ああ、よかった」
「慶吾さん。…まだお客さん居るから、あんまり顔近づけないで。手も握らないで」
「何で?2人の時間なんだよ。邪魔なんかさせない」
「ま、まあ。落ち着いて」

気持ちは嬉しいけど貴方目当ての女性客に睨まれっぱなしなんです。

とハッキリ言ってやろうかと思ったけどやめておく。面倒になりそうだから。
里真の席は賑やかな所からだいぶ離れていたけれど、
それでも何時までもオーナーシェフが傍に居ては視線を集めるというもの。
握られた手をさりげなく離し厨房へ戻ったほうがいいですよと彼に言った。

「あ、そっか。外野が多いと里真も甘え辛いよね。分かった。続きは俺の部屋でね」
「…はい」
「バイト君が呼んでるから行くね。他に何か欲しいものがあったら言って」
「ありがとう慶吾さん」
「当然だよ。君は特別。あ。会計は俺持ちだから気にしないで」
「それは駄目です。私も慶吾さんの手伝いをしないと。ちゃんとお会計はします」
「そう?じゃあ、ありがとうございます」
「…ほら。慶吾さん。呼ばれてますよ。早く行かないと」
「分かった。じゃあごゆっくり」

去っていく佐伯を見ながら新たにいれてもらったラテを飲む。美味しい。
女性客の視線を集めていた里真だが彼が移動したらそれも減った。
まさか自分がオーナーの彼女だとは誰も思うまい。自分でも思わない。

「…もう」

だけど時折此方に視線を向けてニコっと笑う彼に赤面し困る里真。
ごゆっくりと言われたが早めに食べ終えてさっさと店から出た。



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