恋のお試し期間


「そこまで終わっているなら俺は里真が料理する所見てるから」
「そ、そんな凝視しないでいいです」
「せっかく2人きりなんだから見ないと損だよ。さ、お願します」
「…もう」
「怪我には気をつけて」
「大げさですよ。もう煮込むだけだって言ってるの…あちっ」
「里真!」
「だ、大丈夫です」

まるで子どもを見守る親のような心配そうな視線の中、母に教えてもらった通りに
鍋にダシを入れて具材を入れて煮込んで味付けをして。時計を見ると11時。
すぐに終わると思ったのに思いのほかグダグダしてこんな経った。
鍋にふたをして火を落としハアと思いっきりため息。終わった。やっと。

「いい匂い」
「あ」

じっと後ろで様子をうかがっていた佐伯が
里真を後ろから抱きしめると優しく耳元で囁く。
予告ナシの急接近に体がビクっとするが拒否はしない。

「美味しそう」
「そうですか?よかった」
「……里真も、ね」
「も、もう。慶吾さん」
「顔真っ赤。可愛い」

そう言って笑いながら里真の頬にキスをする。火を止めて、
そのまま彼に手を引かれソファに移動して休憩。何となく気まずくて
ちょっと間を空けて座ったら佐伯に引き寄せられ肩を抱かれる。

「慶吾さんはお休みの日って何してます?」

それがあまりにも気まずいので話題をふってみる。

「あんまり部屋には居ないね。買い物とかたまにスポーツとか?観るのもやるのも好き」
「うわアクティブ」
「里真は昼まで寝てそうだね」
「この前は昼過ぎまで寝てました」
「ははは」
「…せっかく慶吾さんの部屋に来たのにこんなのですいません」

本当はもっと可愛い服を選んで準備していたし化粧も雑誌で流行を調べた。
もっと可愛い格好でカバンだって良いものを選びたかったのに。
朝目が覚めて二度寝したのが運のつき。予定がそこからすべて狂った。

「え?何が?里真らしくていいけど。それに、これからは何時でも来て欲しいし」
「こんな綺麗なお部屋だと汚しそうで怖い」
「はは、大丈夫。何があっても俺が綺麗に掃除しますからね」

優しい口調で言うと里真の寝癖を撫でる。こういう所がお兄ちゃんだ。

「わ」
「質問はもういい?じゃあ、…キスしようか」

けど行き成り押し倒されてやっぱりお兄ちゃんじゃないんだと実感した。
彼の顔が近づいてきて、でも強引にするのではなくて里真の返事をじっと待って。
恥かしそうにしながらも里真が小さく頷くと嬉しそうにキスする。啄ばむようなキス。

「…ん」
「里真。…好きだよ。やっと2人きりだ」

彼の本当に嬉しそうな言葉と止まらないキスに里真もうっとりとしてきて。
このまま彼とえっちに発展してもいいと思った。
はみ出るか否かの瀬戸際にいる贅肉と大丈夫だろうとほっといた無駄毛が心配だけど。
今更剃らしてくださいとは言えない。きっと彼なら文句は言うまい。

多分。

「すいません」

さあこれからと言う所で里間のカバンの中の携帯が盛大に鳴る。
せめてマナーモードにしておけばよかったのにそれすら忘れ。
延々鳴るものだから仕方なくソファから起き上がり携帯を取った。
メールではなく電話。暫く喋って電話を切る里真。

「どういう電話?仕事じゃないよね」

乱れた髪を手で掻きあけながら此方を見ている佐伯はセクシーだけど不機嫌。

「えっと。あの。友達からで」
「行くって言ってたけど」
「来週なんですけど。飲み会に。三波も来るんですよ?」
「…ふぅん」

腕を組んでまた不機嫌。里真はその隣に座り様子を伺う。
そんな怒らせるような会話はしてないはずだが。

「慶吾さん」
「あんまり遅くまで飲んじゃ駄目だよ。里真はあまりアルコールが強くないんだから」
「はい」
「遅くなるようなら俺に電話して。迎えに行く」
「はい」
「そのハイが可愛いから良いか。さ、里真。もっとこっちへ来て」

機嫌は治ったようで里真を傍に来させてまた抱きしめる。
優しい抱擁。甘いキス。そして耳元で囁かれる口説き文句。
今まで自分がアタックしてきた男とは全然違う。

こんなにも積極的で熱い人は居なかった。

「……ん…も、ね?慶吾さん…」
「照れてる?可愛い」

こんな優しいだけじゃない艶っぽい笑顔。

どうしよう蕩けそうなんですけど。

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