恋のお試し期間



「あれ。帰ってきたんだ」
「え?」

テンパったり滑ったり楽しかったり熱くなったり。
忙しい1日を終えて深いため息をしながら家に帰ってきたら
弟に言われた言葉。何の事か分からず呆然としていると。

「てっきり佐伯さんとこに泊ってくるのかと思った」
「え。い、いや。無理でしょ。そんな行き成り」
「そんなデカイリュック背負ってって佐伯さん引いてなかった?」
「若干」
「ほらな」
「い、いいの。料理は美味しいって食べてくれたんだから」

初めて行った彼の部屋。総じていい雰囲気で終わったと思う。
あの時彼の手を拒んでしまった事を除けば。
でもそれで怒ったりはせず逆にごめんねと謝られた。

「ふぅん」
「また馬鹿にしたような言い方して」
「お試し期間はまだ継続中なんだ」
「ま、まあね。でも…もうちょっと痩せたら、いいかなって思ってるよ」
「まじで。何年かかるんだろ。それまでに佐伯さんに愛想つかされるかもしれないのに」
「そ、そんな何年もかからないって。ほんの1ヶ月くらい」
「……」
「…2ヶ月?」
「俺に聞くなよ」

彼は優しい人だけど弟の言うように何ヶ月も待ってくれるのだろうか。
高校生の頃のように目標体重になったのに結局告白も何も出来ないで
見送るだけで終わってしまうような悲しい思いをするのだろうか。
だったらもう今からでもいいかもしれない。

「遊びでもいいや。…慶吾さんと付き合いたい」

例え相手に失望されて捨てられたとしても、元に戻れなくてもいい。
優しいお兄ちゃんだけじゃない彼とこれからも一緒に居たい。

恋人同士として。

最初から彼は無理と諦めていたけれど、でも、彼の気持ちは自分にある。はず。

里真の気持ちは決まった。

ひとり部屋に戻り携帯を握り締めては片付けるの繰り返し。
3キロ痩せたらと今日言ったばかりで行き成り電話したら変に思うだろう。


「だから。弟の部屋だからって無断で入るのマジやめてくれない?」
「だって無いんだもん。あんたの部屋に落としたかも」
「何を」
「ヨガのDVD」
「何でそんなもんが俺の部屋にあんだよ」
「あ。あったあった!ほらあった」
「だから何でだよ」
「さあ。謎だよねえ」
「……いいからもう出てってくれよ頭痛いから」
「風邪?」
「いいから!」

結局電話するのはやめてダイエットに集中する事にする。
無駄毛はすぐに剃れるけど贅肉はすぐには落ちてはくれない。
さっそくDVDを再生して運動を始める。少しでも早く落としたいから。




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