恋のお試し期間




「どうしたの。そんな辛そうな顔して」
「今日は散々だったんです。…いろいろと」
「いろいろと。お仕事関係?それとも人間関係?」
「食べ物関係」
「あ…あぁ、そうなの。大変、だね」

バイト君の言葉もあったし今日は少し早めに佐伯のお店に入る。
お客さんは少なめ。これから増えていくのだろうけどちょっと得した気分。
すぐに席に案内されてコーヒーだけ注文したらクッキーもつけてくれた。
ついでに佐伯が向かいの席に座る。お客が少ないからだろうけど。

「クッキー美味しい…」
「ありがとう。もっと食べる?」
「……」
「ご、ごめん。ダイエット中だったね。そんな恨めしい顔しないで」

食べたくないけど彼がくれたものは残したくない乙女心。
愛憎入り混じった複雑な気持ちでクッキーを齧る里真。
見守る佐伯だがさりげなく彼女の手を握り微笑む。

「…慶吾さん、…あの」
「ん。なに?」
「…私」
「何でも言って」

自分で言っておいてなんですけど、

痩せなくても彼女になれますか?

と、言ったら駄目だろうか。モジモジする里真。それを見つめる佐伯。

「……も、もう一杯欲しい」
「甘さは控えめでいい?」
「はい」
「そんな恥かしがる事ないのに。可愛いね里真は」

そうじゃないんです。

でも、言う勇気がないんです。

理真は苦笑い。
新しいコーヒーを貰いのんびりしている間にも人は増えてあっという間に満席。
コーヒーでは粘れない時間に入ったようで外には待っている客も見えて里真は
佐伯にちゃんとした挨拶もせず足早に会計を済ませ店を出た。



「お疲れ様です。今日も大盛況でしたね」
『ありがたい事なんだけど。そろそろ新しいバイトさんを探したほうがいいかも』

彼女として愛想が無くても後で電話をしてくれるからそこで挽回できる。
里真はいつの間にか彼からの電話を待つようになった。
ソレに答えるようにだいたい同じくらいの時間に佐伯は電話をしてくれる。

「待ってる人も居たし。いっそお店も大きくするとか」
『うーん、店はあのままでいいと思ってるんだ。手の届く範囲で精一杯の
もてなしがしたいからさ。なんてかなり気取ってるけど』
「そんな事ないです。慶吾さんらしくていいと思います」
『そう?ありがとう』
「はい」
『今週だっけ。飲み会』
「そうです」
『あんまり遅くまで居ないで適度な時間に帰っておいで』
「そのつもり。ダイエット中だから」
『俺は柔らかそうな里真のままでも十分可愛いと思うけどな』
「どうせ大福もちです」
『ははは。可愛い』
「もう」


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