恋のお試し期間



「…ちょっと、ドライブしない?」
「やっぱり。こっち家じゃないですよね」
「ごめん。送るとか言っておいて」

最初は家へ向かうルートだったのに行き成り信号を逆に回ったあたりから
おかしいとは思っていた。何も言ってくれなくて不安だった里真だが
視線を向けると彼からやっとお誘いの言葉。

「いえ。でも、慶吾さん疲れてません?」
「そんな疲れた顔してる?」
「そうじゃないけど。なんだったら何処かお店でも入って」
「里真と2人きりが1番休まるんだけどな。でも、君が言うならその辺で休憩」
「あ。い、いいです。ドライブしましょう」
「そう?よかった」

そんな嬉しそうに微笑まれるとどこかで休憩しましょうなんていえない。
里真は視線を彼から正面に戻し軽く笑う。

「慶吾さん。私ってそんなにお笑い芸人みたいですか?」
「え。ごめん、俺あんまりそういう番組みないから。…似てるの?」
「顔じゃなくって。その、性格っていうのかな。行動?が」
「そうなの?俺には分からないな」

もしかして男からすると自分はお笑い要員なのだろうか。
真面目に好きになる相手じゃないとか。
だからこの前もフラれたとか。
何となく気になって問いかけてみたら彼は笑っていた。

同じ男でも扱いが全然違う。比べるまでもないのだけど。

「そ、そうですよね。普通ですよね。笑いの神なんかついてないですよね」
「あはは。何それ。友達に言われたの?」
「それでよくからかわれて。慶吾さんにもそう思われてるのかなって」
「面白い事を言う人だね」
「そんなに変ですか…?」
「変ではないと思うけど。その友達も悪意はないと思うな。
君のその反応が可愛いからつい言っちゃうんじゃないかなあ」
「は?!」

人の赤鼻を散々馬鹿にして笑って思い出したように見に来て弄んだあの鬼が
そんな優しい乙女な思想を持っているとは思えない。
ご自慢の恋人相手ならわからないけど、同僚の噂では恋人の美穂子は
実はいい所のお嬢様らしい。通りで品のある人だとおもった。

あまりにもお似合いすぎて羨ましさにムカっとしてしまうけれど。

それを全面に押し出す訳でもなく嫌味もなく自然と接してくれるので

ただ笑っているしかできない。いわゆる完敗というやつ。

「里真?」
「…あ。いえ。なんでもないです」

でも自分にだって素敵な彼氏がいる。お試し中でももう直ぐ本物になる人が。

「そう?」
「慶吾さんはテレビよりスポーツとかしてる方が好きそう」
「そうだね。最近はサボってるけど。テニスとか。夏ならサーフィンとか」
「冬はスノボ?……うわあ似合いすぎる」

そしてどちらも里真には興味もない縁遠すぎる遊びだ。

「今度やってみる?少しくらいなら俺も教えられるしね」
「い、いいです。醜態を晒すだけなので。見てます」
「え。俺を?でも、見てくれるならもっと近くで見て欲しいな」
「どれくらい?」
「近ければ近いほどいい」
「じゃあ、真後ろで見てます」
「それはちょっと怖い、かなあ…」

何処にも寄らずぐるりと遠回りして走ったらあっという間に家へ向かうルートに戻る。
特に行き先もなく明日は仕事がありもう夜も遅いとなったら帰るしか選択肢はない。
彼の部屋にお泊りなんて高度な事は里真からは言えないし、誘われても困る。

里真の気持ちを察してかその話題を出したりはしない佐伯だが。

「…慶吾さん」
「ごめん。…やっぱり、キスは我慢できない」

家の傍まで来て路肩に車をとめるとエンジンを切りシートベルトを外し里真にキスする。
里真もなんとなくそんな予感はしていたから自然と彼を受け入れる。

「そろそろ行かないと」
「ごめん引き止めて。気をつけて帰って」
「気をつけるもなにもすぐ目の前ですよ家」
「君がちゃんと玄関に入るまで見てるから」
「私そんな子どもじゃ」
「心配なんだ。歳は関係ない。君が心配。君を見てたい。それだけ」
「…分かりました。じゃあ。見ててください」
「うん」

彼の好きなだけキスしてもらって手を握り締め甘い言葉を聞いて。
すっかり身も心も温まった所で車から降りて足早に玄関へ。
言った通りずっと車はとまったままで。最後にぺこりと頭を下げて中へ。
それでやっと車は帰っていった。



「里真!夕飯要らないなら先に電話してって何時も言ってるでしょう」
「しょうがないでしょ。予定外に食べる事になったんだもん」
「まったく。じゃあ明日のおべんとうに詰めるからね」
「はーい……って、それを!?」
「我侭言わないの」


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