恋のお試し期間



『今何してるの』
「お風呂入って部屋でのんびりしてました。お土産もちゃんと買いましたよ」
『食べ放題なんでしょ?どう?堪能できた?』
「意地悪な言い方して」
『そんな意味で言ったんじゃないよ。君が楽しめたか知りたいだけ』
「…デザートは我慢しましたよ。1回だけで」
『せっかく来たんだし思う存分食べたらいいのに』

同僚女子たち4人でやってきた日帰りグルメツアー。
一番のウリはホテルの和洋折衷の食べ放題。皆まだお食事中。
でも理真は適度な所で引き上げて温泉に入り休憩する。
何となく手持ち無沙汰になって佐伯に電話した。

「いいんです。食べすぎるから」
『無理はしてほしくないけど。それだけ俺とのこと真剣に考えてくれてるって思っても、いい?』
「…はい」
『嬉しいな。じゃあ、帰ってきたら美味しいケーキのお店行こうか』
「それじゃ意味ないですよ慶吾さん」

美味しいケーキは魅力的だけどせっかく我慢したのにそれはない。
電話口で佐伯は笑っていた。からかわれたのだろうか。
確かにダイエットがんばります!って言いながら食べ放題ツアーなんて。
普通ならお前やる気アンのかと言われるだろう。

現に弟にツッコミを入れられたし。

『じゃあ甘いコトしようか』
「え」
『今君が想像したような甘いコト。それなら気にしないでもいいよね』
「も、もう。またからかって。慶吾さんそんな意地悪でしたっけ?まるで」

どっかの意地悪な……鬼?

『ん?……まるで、…なに?』
「え。あ。…裕樹みたい。あいつ凄い意地悪だから」
『彼なりにお姉さんを心配してるんだよ』
「そうかな。馬鹿にしてるの間違いじゃないかな」

今日も可愛い彼女とデートなんだと家を出て行った。
土産は彼女の好むような可愛いものでいいと言って。
彼は饅頭などの甘いものは苦手。
何であんなクールなヤツが弟なのかよく分からない。

『そんな事ないよ。帰りは9時だっけ』
「はい。たぶんバスの中で爆睡だろうな」
『帰ったら連絡してほしいな』
「はい」
『今度は俺と旅行してほしい』
「いいですね」
『もちろん同じ部屋だよ』
「またそんな事」
『あ。ごめん、そろそろ店に行く時間だ』
「すみません。長々と」
『こっちこそ。楽しんで来てね』
「はい」

落ち着いた優しい声に甘い言葉。つい顔がニヤっとしてしまう。
お試しとは言っても現実彼と付き合っている実感がジワジワと湧いてきて。
それだけに食べ放題の会場に戻るわけにも行かずホテル内を探索する。

カップルがイチャつこうが何しようが今は全然気にならない。

広い空間をただウロウロと歩いているだけでもきっといい運動になるだろう。
たっぷりお風呂にも入ったし。肌も綺麗になったはずだ。

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