恋のお試し期間



ご飯を食べてお話をしながら休憩をして、何時もならそこでさようなら。

でも今夜は違う。

「今日はもうずっと一緒だね。離れて寂しいと思わないで済む。…嬉しいよ」
「…私も」
「疲れたよね。先に風呂どうぞ。もうそろそろたまってると思うから。
あ。そうだ。それとも、一緒に入る?俺の膝に座ってくれたら丁度いいよ」
「……」

お風呂。彼氏と一緒にお風呂。

「あれ。嫌がらない。…いい、の?俺君が嫌がらなかったら入るよ?」
「……あ。い、いえ。ダメ。ダメダメ!」
「想像した?俺もした」
「慶吾さん」

顔を赤らめる里真の素直な反応に笑う佐伯。

「性格もだけどさ、ここはやっぱり…身体の相性も見て欲しい、かなって」
「……私はあんまりよくないと思いますけど」
「言われた事あったり」
「……」
「ごめん。さ、お風呂どうぞ。ゆっくりしてきていいからね」

ちょっと気まずい空気の中オデコにキスされて里真は風呂へ向かう。
場所はすぐに分かった。ここも綺麗で広くてホテルのようだ。
自分の家のほかの家族の荷物が置かれた古臭い風呂とは大違い。

広い風呂に感動しながらも汚さないように注意して体と頭を洗った。
念入りに。もしかしたら見られるかもしれない。

ヘタしたら触れられるかもしれない。

風呂から出ると交代で佐伯が入っていって。
その間適当に寛いでと言われテレビでも観ていようと電源をいれる。

「なんか普通に寛いじゃってるけど。いいよね。慶吾さんはお風呂だし」

だけどこういう日に限って面白い番組がない。他にする事もない。
携帯を弄ろうかと思ったがみると電池が怪しかった。ということで暇になる。
眠気が多少あるけれど先に彼のベッドに寝ているなんて態度が悪いだろうし。
テレビを消してウロウロとその辺を歩いてみたりベランダへ出てみたり。

「そこで何してるの里真」
「あ。えっと。美味しそうな本だったのでつい」
「お腹すいちゃった?」
「いえ。もういいです」

最終的に棚においてあった料理の本を眺めて妄想する事にした里真。
いつの間にか戻ってきていた佐伯をみて慌てて本を戻す。

「暇そうだね。じゃあ、ベッドへ行こうか」
「え」
「一緒に寝るの嫌かな。じゃあ、俺はソファで寝たほうがいい?」
「一緒がいいです。でも、私、寝相よくないかも。蹴っちゃうかも」
「俺もあんまりよくない。さ、行こう」

佐伯に手を引かれ寝室へ向かう。彼のベッドで寝るのは2回目。
最初は1人だったけど、今回は2人。緊張して心臓がドキドキして。
里真はやっぱりやめましょうと言いかけながらも堪えてベッドに入る。
続いて佐伯も入ってくるがつい隅っこへ体を避けてしまう。

「…狭くないですか」
「ないよ。里真こそそんなすみへ隠れて窮屈だよね。こっちおいで。
それともやっぱり俺は居ないほうが寝やすいのかな」
「そんな事ないです」
「じゃあこっち」

引き寄せられてベッドの真ん中へ。抱きしめられるとこそばゆい。
風呂上りでまだ体が温かいのとボディソープの香りとシャンプーと。
色んな感情が混じってやっぱり緊張して眠気どころじゃなくなって。
佐伯の胸の中でどうしようかと目を閉じてみるがまだ無理。

「ほんとに私でいいんですか?」
「君じゃないと嫌だよ」
「どう、して?」
「例えどんな女性が現れても俺が好きじゃないと意味がないよね。
で、俺が好きなのは里真だから。振り向いてもらいたくて必死なんだ」
「…慶吾さん」
「そしてようやく君が俺の部屋に泊まってくれた」

里真の耳元で囁くと甘噛みしてさらにギュッと抱きしめる。
熱い吐息が耳に当たってこそばゆい里真は身を捩るけれど。
ガッチリと抱きしめられて逃れられそうに無い。

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