恋のお試し期間


「ねえねえ、今日もランチ行かない?里真の家の近くにある」
「シェフがすっごいイケメンの。それに里真が居ると話しかけてくれるんだよね」
「あー。ごめん、私今日弁当だから。パス。お2人さんで行って来て」
「そうなの?残念」

勤めている会社も家から徒歩とバスで30分ほどの距離にある。
彼のお店でランチはちょっと遠いけれど車で通勤している同僚と一緒ならすぐ。
安くて美味しいからという理由もあるけれど、彼女たちの目当てはやはり彼自身。
里真が居れば彼が来るからそれでよく誘われるが今回は遠慮する。

「今日から暫くダイエット弁当ですよ…ハンバーグぅ…」

里真は弁当を開けてガックリと項垂れる。メニューは野菜中心肉はなし。
またがんばってダイエットをして痩せて新しい恋に備えるのだ。
暫くして、ランチから戻ってきた同僚たちは嬉しそうに美味しかったとか
今日もやっぱりかっこよかったとか。両サイドに座って里真に語ったが彼女は
お腹が物足りない気分で一杯でまったくと言っていいほどに聞いてなかった。


「大丈夫か?日野」
「え?あ。矢田さん」
「さっきからフラフラして。調子悪いのか?」
「みてたんですか」
「別に見てたわけじゃない。目の前フラフラしてるから嫌でも目に入るだろ」
「はは…すいません」

定時に会社を出てバスに乗りおりたらそこには誘惑の商店街がある。
肉、魚、中華、惣菜、ケーキ、パン何でも揃う。そしてなんともいえぬ芳しい香り。
あっちへフラフラこっちへフラフラ、誘惑に負けそうになってふらついている里真に
声をかけてきたのは違う部署の同期。

新人研修で一緒になって以来なにかと縁がある人。
ご近所さんではないけれど帰る方向が途中まで一緒だからたまに顔も合わせる。
ちょっと怖い印象を持つけれど女子の人気は容姿と将来性も含めかなり高い。

「調子悪いなら誰かに迎えに来てもらえばいいんじゃないか」
「家すぐそこなんで。大丈夫です」
「そうか。ならいいけど」
「矢田さんは営業だから体第一ですもんね。気をつけないと」
「大学では剣道部だったんだ、体には自信ある。お前と一緒にするなよ」
「私だって」
「剣道?柔道?空手?それともレスリングか」
「……お菓子同好会でした」
「そりゃ凄いな。自信もっていいぞ」
「……ははは」

意地悪め。でも、気遣ってくれたのはちょっと嬉しいかもしれない。
アイドル並みに可愛い彼女持ちでなかったらよかったのに。残念無念。
途中の帰路で別れ家を目指す。ここまでくればもう食べ物の誘惑はない。





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