恋のお試し期間



「先あいつにメールしとこっかなあ。……あ。れは」

姉と入れ違いに家を出た弟裕樹。

友人にメールして居場所を聞こう。
勉強しにきて勉強道具という大事なものを忘れていく先が心配なヤツだ。
携帯をいじっていたら聞き覚えのある声が薄っすらと聞こえてきて。
顔を上げると視線に入る見たことある人たち。

思わず足を止め近づいた。

「あの子、…あの時の事に気づいてるんじゃないかなって」
「あの時の事?」

一緒に歩いているのは佐伯と三波。

姉絡みで両方共面識があるし、
二人が付き合っていたという噂は裕樹ももちろん聞いた事がある。
だからもしかして実はまだそういう関係なのかと思い言葉を失った。

でもついついその後を追いかけてしまうのが人の性というもので。

「慶吾さん」
「君は何に怯えているの」

薄っすらと聞こえる会話。

したこと、とか彼、とか。

里真とか。

興味ないつもりが気になるキーワードが出てきて。もっと聞きたい。
でも近づきすぎたら流石にバレる。それは避けたい。

「私は。……私は、…心配なだけ」

三波は切ない表情で佐伯を見つめている。

「里真を守るのは俺の仕事だから。大丈夫。心配はいらないよ」

だが佐伯は視線を遠くに向けたまま彼女の視線には気付かない。


「貴方は何時も里真の事ばかり」
「だから。里真を守るのは俺の仕事なんだよ。何時も気にかけていないといけない」
「でもあの子は……、慶吾さん」
「なに?」
「……、……いえ。…気をつけて」
「うん。君もね」

何かありそうな2人の空気につい見入ってしまった裕樹だが慌てて隠れる。
此方に向かって佐伯が歩いてきたからだ。気づいたからではなく、
自分の家に、つまりは姉に会いに行くのだろう。

その後姿を三波がじっと見つめていたなんて彼は気づいていない。

「な、なんかヤバい所みちゃったかなあ俺」

大した容姿でもないのにお試し彼氏なんて暢気な事をやっている姉。
さっさと付き合わないから冷たい印象だが美人の三波に取られたのではないか?
爽やかな兄さんな佐伯だってやっぱり普通の男で

姉なんかより美人の彼女を選んだという事なのか。
裕樹は姉にこの事を言うべきか黙っているかで悩む。

言ったらきっと姉は傷つく。

でも言わないで行き成りふられるよりはいいだろうか。

「あ。裕樹。お前なんであんな変なメール送ってきて」
「メール?あ。そっか打ってる途中で送信押したのか俺」
「はあ?」
「忘れもん」

悩みながら歩いていたら友人の家まで来ていた。
インターフォンを鳴らすと彼が出てきて不思議そうな顔をして迎えてくれて。
忘れ物を渡しそのまま家路に着く。でも家にはまだ慶吾が居るかもしれない。
あんなところを見てしまってからだと素直に歓迎は出来ない。

だって彼は。



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