恋のお試し期間


「ああ、また少し血がにじんでる。すぐ消毒してもらって」
「ありがとうございます。でも、どうして」
「いいから。今は消毒が先。また明日ね」
「はい」

不思議そうな顔をする里真の頭にキスをして家に入ったのを確認。

これで終了。

じゃなかった。

「連絡ありがとう。優しいんだね、誠人君」
『別にあんたに言った覚えはない』
「確かにバイト君伝いだったけど。やっぱり君も根っこは変わらない、のかな?」
『あんたもな』

一方的に電話は切られたが佐伯は笑みを浮かべ自分も携帯をポケットに入れる。

「…帰ったら頃合を見て里真に電話しよう。跡が残らなければいいんだけど」




足には絆創膏。顔には軟膏と赤くなったのは化粧で誤魔化す。
暫くあとは消えないだろうと母親に笑われたが怒る気はしなかった。
もう散々先に笑われたし。

それに、まさか佐伯が居るとは思わなくて。
あんなに怒られるなんて思わなくて。ちょっとビックリした。

「どうしたの里真その顔」
「…ちょっと転んで」
「大丈夫?」
「うん。大丈夫」

間違っても歩いてて電柱にぶつかったんですなんて言えない。

事情を知っている矢田はそう言いふらす男ではないと思うので
みんなの笑いものになるなんて事はないと思う。
ただ、顔を合わせるたびに笑われる可能性は大いにあるけれど。
その日は出来るだけ彼に遭遇しないようにコソコソとやり過ごした。



「あれ。お店休みなんだ」

最近ちゃんと会ってないから今日は定時に終わって急いで来たのに。
あと助けてくれたお礼もしたかったのに。お店は閉まっていて暗くて。
もしかしたらとドアを開けようとしたが鍵がかかっていた。
お休みなら事前に連絡をくれたらよかったのに。ガッカリしつつ家路につく。

「あ。姉貴」
「ただいま。なに?バイト?」
「いや」
「あ。デート。何よこんな時間からなんて…はあ、最近の若い子って」
「さっきまで居たツレの忘れ物届けに行くだけだ何想像してんだよきもい」
「そうなんだ。がんばってねー」
「うっさい」

玄関をあけると今まさに出かけようとしている弟。
てっきり可愛い彼女と夜のデートかと思ったらそんな色気はなく。
忘れ物がはいっていると思われる袋を持ちさっさと出て行った。

「ただいまーおなかすいたーごはんー」
「はいはい。てか、あんた今日早いね」
「寄り道しなかったもん」
「そうなんだ。珍しい」
「別にいいでしょ。足も痛いし。そう歩きたくないの」
「手伝いなさいよ」
「あー足いたたたた」
「まったくもう」

自分だって佐伯の店でゆっくり時間を潰すつもりだった。
まさか閉まってるなんて思わなくてがっかりしているのだから。
そこはあまり掘り起こさないでほしい所だ。
里真は夕飯をきっちり食べて風呂に入り彼からの電話を待つ。



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