恋のお試し期間
その愛は、本物ですか?


ちゃんと自分の過去を振り返ることは出来る。
ぽっちゃりでからかわれ特に一部の女子には敵視されていて
そんな自分が嫌いで落ち込んだりもしたけれど似たような仲間を見つけ
そして恋をして必死にダイエットをして痩せて、でも初恋は実らなかった。

「ほら。私が気づいてない事なんて。そんなの無いじゃない」

なんだって分かってる。自分の事だから。裕樹に馬鹿にされたのか。
会社に行くためバス停へ向かう途中ずっとその事を考えていた。
記憶に残る最古のものから順番に再生していったが問題なかった。

「……馬鹿裕樹」

でも、思い出せないんじゃなくて最初から知らないからだったら。

「……」

自分の事なのに知らないことなんか。

「……」

でも「皆」は知っている?

「……」

そんなこと。そんな意地悪。

「……」

あるわけ。

「……何ですか」
「は?歩いてるだけだけど」

真後ろにビシバシ感じる視線。気のせいじゃない。
静に振り返ると腕を組んで此方を見つめている矢田がいた。

「さっさと追い越して行けばいいじゃないですか」
「何朝から怒ってんだ」
「怒ってないです」
「睨むなよ」

今はあまり会いたいと思えない人だったから余計機嫌は悪くなる。
どうして不機嫌なのかは自分でも分からない。自分の事は分かるはずなのに。
相手は里真の態度に困惑している様子。それはそうだろう、朝いきなりで。

「……」
「行き成り立ち止まるなぶつかるだろ」
「…今日は気分が悪いのでお休みします」
「は?…お前、調子悪いのか。大丈夫か」
「ほっといてくださいっ」

叫んで里真はバス停とは逆方向へ走り出した。
何でこんな事になっているのかは分からない。テンパったからとしか。
普段運動しないものだからすぐに息切れして建物の影にかくれしゃがみこむ。
あまりに呼吸が困難で死ぬかと思った。でも整えて立ち上がる。すぐ会社に電話。
どうせ今からバス停へ向かったってバスは行ってしまったし1日くらい休んでもいい。



「今日はどうなされました?」
「あの、ちょっと熱っぽくて。頭痛がして」
「顔が赤いですね。息も荒いようだし。みましょう」
「…はい」

家には帰れず行くあても無く向かったのは倉田医院。
建物は昔と変わっていないから懐かしいと思いながら診察室へ。
ただ先生は息子の代になっているからやはりそこは歴史を感じる。

「やあ、里真ちゃん」
「あ。あの、お久しぶりです」
「調子悪いみたいだね。もう見て貰ったかい」
「はい。仕事の疲れがたまってるんだろうって」

話を聞きにきたのに普通に診察をしてもらっただけで終わり。
待合室で待っているとそこに偶然通りかかる懐かしい先生。
といっても世話になっていたのはたぶん里真よりも裕樹のが多い。

「そうか。無理しちゃいけないよ」
「はい。あ。あの。ちょっといいですか」
「ああ。どうした」

医者はもう引退したがたまに医院に来て様子を伺っているという。
隣に座ってくれてやっとちゃんと目的である話をする事が出来た。




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